Vol.23 2000



「ピンチランナー」 (那須博之監督)

 「この映画は壮大なネタなんだろうか?」
モーニング娘。主演映画の上映開始直後に頭をもたげてきたのは、そんな不安にも似た疑問だった。

 すでにパロディの対象となっているような演出が本気で使われ、多用されるスローモションは致命傷をこれでもかと深めているかのようだ。男の自転車に二人乗りして八百屋のバナナを奪い学校に着いたら口うるさい女教師にその皮を投げつける後藤真希は非常に可愛いが、古い世代の話を持ち出すとその一連の場面には「月曜ドラマランド」的なものを連想させられる。ちなみに後藤は天井から床に降りたり血糊を浴びたりと、特に前半で能天気キャラとして大活躍だ。また一部のメンバーにはヘヴィーなバックグラウンドが用意されているが、安倍なつみには不幸ネタを詰め過ぎだろうとか、市井紗耶香の父親はなぜ休日も含めいつも同じスーツを着ているのかとか、飯田香織はいつバスケ部のメンツと仲直りしたのかとか、保田圭が「ひたちなか全国少女駅伝大会」の年齢制限で走れないからって心臓病という設定にするのはあんまりではないかなど、どうにも本筋とは離れた部分で興味は尽きない。不可解な部分も散見されたので、撮影された部分をかなりカットしているのかと勘ぐったほどだ。

 クライマックスとなる駅伝シーンは、「ひたちなか全国少女駅伝大会」という実在の駅伝大会で収録されたそうで、そこだけいきなり画質が変わる。主な音楽はデパートのBGMのようなものとテクノの2種類なので、疾走シーンで妙にのんきな音楽が流れるのはいただけない。そして、走りながら人々に愛想をふりまく飯田の姿には、現実と虚構の壁があっさり壊されていたのだった。走るモーニング娘。のメンバーに伴走する野郎どもがそのまま映っているのといい、かなりの度胸を感じずにはいられない編集だ。

 ラストを迎えエンドロールも流された後に、この作品はさらなる揺さぶりを観客に与える。新メンバーが登場するその部分と本編との関係については、僕はパラレルワールド説、同行のかちゃくちゃくんは夢オチ説を唱えたが、やはり真相は謎のまま。新メンバーがひとりひとりファミリーマートの前で抱負を述べる場面に至っては、多少の整合性を犠牲にしてもキャラクターに焦点を当て続けるこの作品の姿勢の貫徹ぶりを強烈に印象付けるばかりだ。

 終劇後に僕が漏らした「昔初めてゴダールの作品を見た人たちもこういうショックを受けたのかも」という言葉は、かちゃくちゃくんに「違うでしょう」と一瞬にして否定されてしまった。「ビー・バップ・ハイスクール」シリーズで知られる那須博之監督が生み出したのは、社会派とは別の意味で観客に多くを考えさせる作品といえる。「いろいろ詰め込み過ぎて最後にどうでもよくなったんじゃないですか」というかちゃくちゃくんの推測はさておき、一応モーニング娘。のメンバーそれぞれの個性を考えて撮ってはいて、それが悲劇(あるいは喜劇)の始まりだったような気がしてならない。そして最初から最後まで躁状態に包まれたかのようにアッパーである点で、どうにもこうにも「ピンチランナー」は尋常ではないのだ。

(JUN/12/00)