Vol.21 1999





菊の御紋は秋風より早く (99年11月29日 上野公園)

 上野公園には警察関係のものものしい車両が何台も停まっていて、「こりゃ警察官が集まるオフ会があるんだよ」などと冗談を言っていたら、道沿いに人が集まっているのでつい人の壁の一部に。耳にイヤホンを差した私服警官はやけに愛想がよくて、「10分に出発なので12分ごろにここを通られます」という言葉が細かいスケジュール設定をうかがわせていた。

 すっかり黄色に染まった銀杏に青空、そして次第に沿道に人が集まってくるのは、人がそこに集まっているから。

 かくして午後1時12分、道の向こうから黒塗りの車が数台現れた。デジカメ片手に肝心の車はどれかと迷っていたら、周囲から「あの菊の旗が立ててある車ね」との声が。なるほど。ファインダーを右目で覗き、左目で前から2台目の車を見つめる。

 そして目の前に…何の含みもなく「和やか」と形容するのがふさわしい笑顔で手を振るその人が見えた。その瞬間、僕を貫いたのは意外なことにドキリという微かながら確実な衝撃。シャッターを押すタイミングはほんの一瞬遅れてしまい、それは僕の意識下で彼の存在が思いのほか深く刻まれていることを物語っているかのようだった。

 デジカメの画像を表示させると、車の進行方向である右寄りに彼の姿は映っていて、僕の動揺もそのまま映し出していることが少し苦々しい。そして、予期せず訪れた一瞬の機会に興奮して笑顔で声をあげ続ける連れや周囲の人々の中にいると、そうした興奮も自分の他愛ない動揺も大差はない気がしてきて、溶けて混ざっていくような気持ちでその場を離れたのだった。

(DEC/13/99)