Vol.10 1998



「南京1937」 (呉子牛監督)
 三大紙でも報道されたのでご存じの方も多いと思うが、公開前月から会場のエポック中原周辺で右翼の抗議活動が続き、会場を運営する川崎市が主催者に上映の見直しを求めたといういわくつきの映画だ。今日は、会場に行ったら右翼の車が突っ込んで炎上してたらどうしようと怖々と向かったのだが、会場前には当日券を求める人が列を作り、会場は2階席まで満員で立ち見が出るほどの盛況ぶりだった。やはり40才以上の層が多いが、10代・20代の若い連中も意外なほどいた。結局、一連の事態が宣伝になったということなのだろう。

 そうした状況はさて置き、作品自体の評価だ。香港・中国合作の95年作品で、原題は「南京大屠殺」、監督は呉子牛。映画で中心となるのは、上海から南京へ逃げてきた、夫婦と子供2人の家族だ。この夫婦は、夫が中国人、妻が日本人で(この結婚の経緯についてはほとんど描かれない)、国籍によって翻弄される戦時下の家族の悲劇が描かれる。戦闘や虐殺のシーンは、凄い数のエキストラを動員していて、かなりの迫力だ。

 ただ、この映画の最大の難点は脚本だった。家族を描いたドラマはあまりにも凡庸で、迫力ある戦闘・虐殺シーンに比べてあまりにも貧弱。そのために、作品としての主軸すらもブレている印象だ。また、虐殺に至るまでの日本軍の描写は極めて簡単で、政治的なメッセージを表現しようとするのならば、もっと映画としての説得力を持たねばならないだろう。残念なことだが、作品としての完成度は決して高くなかったというのが偽らざる感想だ。

 しかし、家族愛を主軸としたこうした作品すら上映中止に追い込まれそうになる状況ってのは一体何なのだろう。1ヶ月も抗議活動を続けた右翼も右翼だが、それに屈して上映を中止させようとした川崎市には呆れ果てる。どんな思想表現であってもその存在自体は認められるべきだ、などと改めて書くのも馬鹿らしいほど至極当然のことを願う次第。そして、困難な状況の中、上映に尽力された「南京1937」上映実行委員会の皆さんには敬意を表したい。

(NOV/02/98)