Vol.8 1998



「鬼畜大宴会」 (熊切和嘉監督)
 現在23歳の熊切和嘉監督による初作品で、ベルリン国際映画祭で何か賞も取ったらしい。公開前から一部のスキモノの間で話題になっていた映画だ。ロビーには入場待ちの人が結構いて、どいつもこいつも暴力の陶酔感を欲しそうな目をしていやがる。新井英樹や宮谷一彦の読者層とも重なってそうだった。

 舞台は70年代、雅美が中心になっている学生運動のグループは、アパートで共同生活を送ってる。彼らはリーダーである相澤の出所を待っていたが、やってることは郵便局強盗という、崇高なる理想とはかけ離れたものだ。そして相澤は刑務所で割腹自殺してしまう。そんな状況の中、活動に不満を持って脱退した山根は、グループの悪行を警察に通報するが、逃げることに成功した雅美たちはそのことを知り、山根を処刑するために山中へ連行することになる。

 脂汗が浮き出てきそうな真夏のアパートでの露悪的なまでにグチャグチャしたセックスから始まって、いちいち芸の細かい血の飛び散り方、素手で掻き回される死体の内臓と、何もそこまでってくらいグロな世界が観る者の不快感を高めまくる。しかしその一方で、小規模な共同体が生み出す狂気がここまで描かれているとなれば、もはや純粋に気持ち良くもある。理性が吹き飛んで、狂気と衝動でしか動けなくなった人間たちに画面は埋め尽くされていく。

 人物の表情を接写する撮り方や、狂っていく精神を表現する映像と音の相乗効果がいい。また、読経や三味線、和太鼓といった和風の音楽も見事にハマっていた。雅美がフェラチオのごとくキジの剥製の頭にしゃぶりつく場面や、アグネス・チャンのポスターが血飛沫で染まっていく場面は最高。画面を大胆に色付けしてしまうのも痛快だ。

 物語の舞台となったのが70年代というのも、今の僕らの世代にはない状況を求めたら、学生運動、特に連合赤軍のようなものに行き着いただけなんじゃないだろうか。上の世代の共通体験を茶化そうとしてるっていうよりも、単純に暴力と狂気を描けるネタがそこにあっただけなのでは。そうは言っても、刀に魅せられる藤原がどうも三島由紀夫っぽいので、何か政治性もあるんじゃないかと勘ぐったりもしたんだが、日の丸の前でセックスしたり、最後には刀で日の丸を刺したりしてんで、そういうこともなさそうだと妙に安心。

 ラストはちょい予定調和な気もしたが、でも正直嬉しかったな。あれで喜ぶのも悪趣味だが。観た後は本当にいやーな気分になったが、同時にもう一度見たいと思ったんだから、向こうの勝ちだ。もっとも、人を殺すために山中へ行く場面の静かな森の映像をみると、監督が狂気を対象として突き放して見ていることもよく分かる。表現衝動と技術が高いレベルで合致した、実は爽やかな作品なのかもしれない。

(AUG/24/98)