LIVE REPORT Vol.7



「HOME ROOM vol.0」 (00年11月5日 早稲田大学第二学生会館)
 少し遅れて3時前に入場すると、minamoがライヴ中。2台のギターが奏でるアコースティックな音色にエフェクトがかぶさりながら、ゆっくりと盛りあがり、そしてゆっくりと冷めていくような演奏だった。

 それに続くは、個人的に今日の本命であるSPANK HAPPY。もちろん僕は両眼で食い入るように岩澤瞳を捕らえて離さない。今回もメガネ、そしてふたくくりの髪に黒のノースリーヴのドレスで登場されたら、もうそうするしか道はないのだ。今回最大の見せ場は、MCの途中で菊池成孔が突然「そのふたくくりは飽きた、髪を下ろそう」と言い出し、彼女の髪をなでつけで整えた場面だろう。いやらしすぎる。菊池成孔が岩澤瞳をプロデュースする過程をそのままステージで見せつけ、あまつさえ菊池成孔が一緒に歌い踊るためにダンスや歌唱のレッスンまで公開されているような錯覚を受けてしまうのがSPANK HAPPYのステージだが、果たしてどこまでが演出でどこまでが偶然なのか。その謎が解けないまま、菊池成孔が岩澤瞳に「皆さん良いクリスマスを!」と言わせるという一発ネタでステージは幕を閉じたのだった。音楽面で驚いたのは、「スパンクスのテーマ」がレゲエ風のリズム処理と、ラガマフィンのようなボーカルスタイルで演奏されたこと。そう、SPANK HAPPYはハラミドリと河野伸が在籍していた頃と同じ名前を冠して続いているわけで、ちょっとだけ菊池成孔の意地を見た気がしたのだ。

 外で休んでいたところ、なんだか会場から愉快な音が鳴り出しているので戻ったら、スッパ・マイクロ・パンチョップの演奏だった。即興性のある演奏にチャーミング&気狂いなボーカルが絡み、しかもドラマ性もあるというバンド。今日初めて知ったものの、これは見れて幸運だったと思うほど面白かった。サンガツは予想以上に躍動的な演奏を聴かせるバンドで、特に最後の曲は素晴らしい展開。かなり楽曲の骨格がしっかりしている。また、森林の映像によって音楽の瑞々しさを引き出していたVJもとても良かった。THE REST OF LIFEは、途中サイケデリックな轟音が鳴り出して思わず逃亡。

(DEC/18/00)



渋さ知らズ (00年10月9日 パシフィコ横浜)
 渋さ知らズの面々が登場していよいよ演奏かと思ったらサウンド・チェックで、ちょっと演奏しては中断すること数回。そして一度引っ込んだ渋さ知らズに代わって登場したのは、武士のような格好をした男たちで、彼らが場を湧かせてから渋さ知らズが演奏を始めるという趣向だった。しかも、きらびやかなダンサーだけではなくアングラ劇団の団員のような連中も出てきて客席で踊りだすんだから、下世話なんだか芸術的なんだかもう分からない。渋さ知らズ初体験の身としてはこの辺でもうやられてしまった。

 なにより渋さ知らズの演奏は、アルバム「渋瀧」から想像していた以上に踊れる。MCやコントを挟みながら下世話かつワイルドに突っ走り、本当に会場を走りながら演奏もしていた。しかも会場を走っているメンバーに、ステージ上のメンバーが手を振ったりしてるんだから馬鹿馬鹿しくて大笑いだ。そして見上げると、会場には芋虫のような形の10メートル以上もある風船2種も泳いでいた。

 渋さ知らズのライヴは音楽と演劇とパフォーミング・アートが闇鍋のごとく融合しているが、ただひとつフリー・ジャズのグルーヴに貫かれている。そう、渋さ知らズは高尚で洒落たジャズ村からはみだしてしまった野武士のようなジャズ・ミュージシャンの集団で、むやみなほどエネルギーに溢れた彼らのライヴは、目的なき村一揆のようだった。1時間半はあっという間で、アンコール無しになってしまった時間制限さえなかったら、横濱JAZZプロムナード2000という横浜市のイベントだということ自体も忘れていたかもしれない。

(OCT/23/00)



SAKANA、SPANK HAPPY、NOVO TONO (00年8月20日 渋谷クアトロ)
 話していると普通なのに、歌い出した途端日本人とは思えないほどの黒さと深さになるポコペンの声。それに聴き惚れたのがSAKANAのステージだった。そして勝井祐二のヴァイオリンもまた素晴らしく、歌と付かず離れずの微妙な距離を取りながら様々な要素が見え隠れする彼独自のプレイに、何度となく僕の耳は奪われてしまう。

 PHEW・山本精一・大友良英・植村昌弘・えとうなおこ・西村裕介という猛者の集まったNOVO TONOは、CD「PANORAMA PARADAISE」から想像していたものをはるかに超えるテンション。岸田今日子のような発声でありながらPHEWのボーカルは変幻自在な表現を繰り出し、おまけに今日は初MCまで披露された。NOVO TONOの音楽は、喜怒哀楽のどれにも属さない感覚あるいは全てが混在する感覚を、あらゆる音楽コードを交錯させて表現してしまうわけで、それを支えるのがメンバーの超絶的な演奏技術であることは言うまでもない。リズムの主軸がどこにあるのかも分からないような変拍子になっても、PHEWはタイミングを外すことなくキッチリ入るので、彼らのリズム感覚はどうなっているのかと考えてしまうほどだ。演奏のスピード感と激しさも凄まじく、ヘヴィメタなんて吹き飛ぶほど。ギターを振り回す大友良英を見ていたら、この人たちは電動ノコギリを振り回す代わりに楽器を持っているのかと思わせられた。いやはやすごかった。

 しかしその夜最大の目玉は、名作「FREAK SMILE」を生み出した後の相次ぐメンバーの脱退により菊地成孔ひとりが残されたまま活動停止を余儀なくされていたSPANK HAPPYだろう。遂に新ボーカリスト・岩澤瞳を迎えての初ライヴを行なった、その新たなる姿とは…!

 いきなりカラオケだった。しかも岩澤瞳との間にCDJなどの機材を挟み、菊地成孔まで一緒に歌うのだ。さらには、ところどころで二人で一緒に振りというかアクションも。そんな姿を直視したために、激しい衝撃と迷走した感動が僕に爆笑をもたらした。最高! MCも菊地成孔がシナリオを書いたと推測されるほど絶妙で、菊地成孔の頭の回転の早さを全く意に介さない岩澤瞳の異常なまでのマイペースぶりが、客に大受け。しかも岩沢瞳はメガネをかけているし、裸足だし、著しく見る者の萌え心をくすぐる。歌い出しのタイミングを毎回菊地成孔が出し、歌の途中で彼女がメガネを外すという場面まであって、その徹底的な演出には菊地成孔のある種フェティッシュな変態性をまざまざと見せつけられた気分だった。  声量の関係でボーカルが聴き取りづらいなどの問題は今後解決されうるものだろうし、それより岩澤瞳というキャラクターの可愛らしさとDEATH加減の魅力は尋常ではない。今回披露された楽曲はテクノ・ポップ的なものが主体で、デトロイト・テクノばりのサウンドからストリングスが前面に出されたものまで。野宮真貴加入当時の、もっとも人を舐めていた時代のピチカートを連想させられた。なにはともあれ、3バンド登場したうちの2番手なのにいきなりアンコールが起きてしまったことも、新生SPANK HAPPYがオーディエンスにバカ受けしていたことを示す事実として記録しておこう。

 自分も菊地成孔と同じ年齢になった時、17歳下の女の子を好きに操れるとしたら確かに幸せかもしれない…とも思ったけれど、真っ当な社会生活を送るためにはそんな妄想は早く忘れなければ。

(OCT/23/00)



デートコース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデン (00年6月24日 吉祥寺Star Pine's Cafe)
 菊地成孔が率い、栗原正己や大友良英を擁する総勢11人のこのバンドを一言で表現するならば、もう最高としか言いようがない。どんな音楽を演奏するのか聴くまで想像がつかなかったのだが、1曲目からいきなり主軸がどこにあるのかわからないような渦を巻くリズムが繰りだされ、もう笑ってしまうほどの衝撃度だった。

 なによりすごいのは、アヴァンギャルドのためのアヴァンギャルドのような自家中毒に陥ることなく、絶えることなくスリルが持続してしまう点。言葉にすると簡単だけど、20分もあるような楽曲を短いものに感じさせてしまうような力量は並のものではない。自分たちの音圧に押し潰されることのない、圧倒的な技術と構築とテンションによるジャズ。そもそもどうやって作曲されているのだろうか。個々のプレイヤーの自己主張がありありと感じられるものの、同時にバンドの重層的なサウンドの要素として有機的に鳴り蠢き、それを操るバンマス・菊地成孔のいかれた才能に驚嘆せずにはいられなかった。そう、彼はステージ向かって右側前でメンバーに演奏する順番や次の展開に入るタイミングを指示し、戦争に関する音楽を演奏するというデートコース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデンのまさに軍曹のようだったのだ。

 そして生み出されるサウンドは、たとえロックやソウル〜ファンクのテイストがあっても、その単一的なサウンドにとどまらない恐ろしいほどの猥雑さがあり、拡散と結集がリアルタイムで繰り広げられる点にこそデートコース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデンのスリルは存在していた。楽曲ごとの混沌度には差があり、それは同時にスリルの差をも招いていたものの、それでも他のアーティストには出せない音がそこにあったのは間違いない事実だろう。

 ライヴでは普段なら録音なんて考えない僕が、録音する術を持たなかったことをひどく悔やむサウンドで、もう音源のリリースを熱望してやまないのだ。

(JUL/10/00)



SLAPP HAPPY (00年5月14日 吉祥寺Star Pine's Cafe)
 オープニングはALTERD STATES+菊地成孔。「Plays Standards」と題された通りスタンダード・ナンバーを演奏したはずだが、僕がジャズに詳しいとは言えないのに加え、演奏はクスリでラリったかのようなアレンジで展開されたので原曲がほとんどわからなかった。しかし彼らの場合、単に奇をてらったかのようなアヴァンギャルドではなく、恐ろしく優れたテクニックを持ちつつ同時に音を鳴らす快楽を追求するかのような緊張感の溢れた演奏で突っ走るので、文句無しのかっこよさ。痙攣してのたうちまわるかのような音が続けざまに襲ってくる変態っぷりはあくまでもクールなのだ。

 そして結成28年目にして初来日のSLAPP HAPPYは、セッティングの終わり頃からAnthony MooreとPeter Blegvadがもったいつけることもなく姿を現した。しばらく波ような音が流され、やがてDagmar Krauseも登場。ずいぶんと仕草が可愛らしい人だけど、歌うとなるとあの優しくも凛とした声に聴き手は包まれるわけだ。演奏は完全に3人のみによるもので、デビュー作「Sort of」から最新作「Ca Va」までの曲が披露されるサービスぶり。ただ、長年のファンとの交流を楽しむような和やかなステージは、有無を言わせず引き込んでしまうようなエネルギーには欠けていて、2時間近いステージが時に長く感じられたことも事実だ。それは僕が最初に「Ca Va」で彼らと出会い、その張りつめた美しさに魅了されたためでもあるのだろう。「Casablanca Moon」のイントロに興奮し、「Scarred for Life」のメロディーの美しさに陶酔するような瞬間は、それでも度々訪れてくれたのだけれど。

(MAY/22/00)