LIVE REPORT Vol.1



喜納昌吉 (9月5日 新宿ロフト)
 この日新宿ロフトで行われた「ネオ縄文人宣言」は、僕をウンザリさせるに十分な左翼系イベントだった。観ている方が恥ずかしくなる芝居、くだらなさを絵に描いたようなパフォーマンス、成果ゼロの討論会。しかし、寿や高橋鮎男らによるセッションから、やっとまともな内容になり始め、最後はいよいよ喜納昌吉の登場となった。

 高校時代から聴き続けてきた彼を生で聴くのは今日が初めて。しかもほんの数メートル先に本人がいるのだ。演奏は、チャンプルーズの石岡裕と喜納だけで行われたので、バンドじゃないのか?といったんは落胆したものの、これが逆に良かった。喜納の歌う声が、弾く三線の音が、より一層の存在感で迫ってきたのだ。彼の喉から出た声の、なんとハリのあることか。この男のカリスマ性を実感させるに充分なものだった。激しくかき鳴らされる三線、宙に昇っていくかのような歌声、そして喜納が歌いながら立てる人差し指。その姿は司祭のようであり、強烈な磁場で聴衆を包み込んでいた。

 喜納のカリスマ性についてはよく語られる。しかし、喜納の本質は、そのカリスマ性をもってしても決して宗教を生み出すことのない、果てしない開放性にあると思う。喜納は、すべてを吸収する。そして、その混沌の中から歌を生み出す。今日戦慄するほどのエネルギーを感じさせたのは、この混沌から歌が立ち現われる瞬間のダイナミズムなのだ。そこには凡百の宗教が抱える閉塞感ではなく、むしろ原始的なアニミズムが持っていたであろう、強烈な躍動感があった。自らリスクを背負って社会問題に立ち向かう彼は、世界から怒りや悲しみを吸収し、自己の器を拡大し続けていたのだ。

 アジア各地で歌われる代表曲「花」を歌いながら、時には禅僧のように悟った表情を浮かべ、あるいは優しさに溢れた表情をし、そして激情を剥き出しにする。石岡裕と2人による演奏は、親密にして濃密な空気を生み出していた。そして今日語られたすべての政治的な言葉を、歌のメッセージが雄弁に追い越していった瞬間でもあったのだ。

 最後の「ハイサイおじさん」では、とうとう三線の弦を切ってしまい、三線のボディーを叩く始末。そして轟音状態へと展開したが、それでも皆が笑顔で踊る。世界一楽しいノイズだった。

 終演後外に出ると、なんと喜納昌吉が気軽に周囲の人と話しているじゃないか。慌てて近所のコンビニに走り込んでカメラを買い、単なるミーハーと化して、一緒に写真を撮ってもらった。すべてを吸収し開放する男に直に接することが出来た、嬉しい夜だった。



「メトロトロン・ワークス」 (7月13日 九段会館)
 メトロトロンは、東京のムーンラーダーズ周辺のミュージシャンたちの地下水脈だ。いや、アンダーグラウンドというほどマイナーでもないので、路地裏人脈と表現した方が正確かも。メトロトロンは、信頼できる音楽を届けてくれる安心のレーベルであり、派手さはないけれど、音楽に向かい合う彼らの真摯な姿勢が僕は大好きだ。

 この日は、そのメトロトロンの設立10周年記念ライヴ。10組も出るライヴだけに、どんな長丁場になるかと心配していたが、1組3曲ぐらいでサクサク進行した。1番手の加藤千晶は、「WARAJI LIVE」の時より歌声がしっかりした印象。素朴だけど、ほんといい曲を書く人だ。栗コーダーカルテットは2番手に登場、あのリコーダーの音色が広い会場に響き渡るのはすごく気持ち良かった。綿打克幸・コルネッツ・青木孝明と続き、濱田理恵のステージでは、やはりその歌声にメロメロに。彼女の歌を聴きに行くたびにこんなことを書いてるが、ピアノの音1つまで聴き逃せないような表現力はやはり際立っている。何度生で聴いても全く飽きない人だ。

 ブラスやスティールギターも含む布陣で演奏した青山陽一は、呪術的なグルーヴまで感じさせて最高。生で聴くのは「WARAJI LIVE」に続き2回目だが、僕の中での株は上がりっぱなしだ。さらに徳武弘文・さいとうみわこが続いて、トリは当然鈴木慶一&博文兄弟によるTHE SUZUKI。少年時代から青春期までのノスタルジックな記憶を、泥臭いロックで歌いあげる私小説的な世界のユニットだ。羽田空港の騒音や高速道路の排気ガス、街に満ちる光化学スモッグ…そんな風景が浮かんでくるサウンドに、すっかり興奮させられた。離婚しようが再婚しようが、まだまだ老いてないぜ、鈴木兄弟。



「WARAJI LIVE」 (5月25日 渋谷LA-MAMA)
 メイン出演者は、鈴木博文・濱田理恵・青山陽一らメトロトロン首脳陣で、さながら7月に控えた「メトロトロン・ワークス」の前哨戦だった。

 ライブはまず青山陽一のステージからスタート。この人を生で聴くのは初めてだったのだが、期待以上にかっこいい。あと、髪がきれいなんだこの人。関係ないけど。さらに、途中西村哲也と現カーネーションの太田譲が登場してグランドファーザーズを再結成した場面では、まさに白熱。皆えらくいい音出すんだよ。「ロッケンロール」も悪くないなぁ、なんていまさら思ったりもした。

 続いては濱田理恵。長い時間やるのは久し振りと言う彼女が演奏したのは、全て、唯一のアルバム「無造作に愛しなさい」未収録曲。ピアノと歌のみで、急緩自在に表現されるこの人の世界は、優しさと恐ろしさが同居する罠のようだ。そして、まんまとその罠にはまりたい気分になってしまう。このステージでは、元ザバダックの上野洋子がゲスト出演。なんと金髪でした。

 さらに、今度メトロトロンからデヴューした新人・加藤千晶が、鈴木博文との共演で2曲。ふわふわした感じの歌声と曲で、鉄琴を叩きながらひたむきに歌う姿が印象的だった。

 「特殊学級だと思って聴いて下さい」と笑わせてから、今度はつれれこ社中がスタート。三味線入りの和風演奏が始まると、さすがに客席からは困惑混じりの笑いが。メトロトロン系の客って、こういうのに免疫無さそうだもんなぁ。

 鈴木博文は、そのつれれこ社中と1曲共演してから、ギター1本のみで3曲を歌う。4月12日の木馬亭の時も思ったが、この人はギター1本で歌う時が最高だ。表現者としてのコアな部分が、剥き出しになる。西村哲也と濱田理恵とも1曲ずつ共演、シンプルかつ豊潤な歌と演奏だった。

 アンコールでは、鈴木博文・濱田理恵・青山陽一の3人中心で、共作曲を2曲演奏。3時間以上に渡って立ちっぱなしというキツいライブだったが、各ミュージシャンの音楽的な多彩さを堪能できた。



「おこぼれ音楽会」 (4月12日 浅草木馬亭)
 渋谷から地下鉄で向かうと、上野あたりからは周囲の会話に方言が混じってきた。浅草に着いてみると、なんかすごく「地方直送の空気」が漂っている気がした。仲見世の人混みを進み、浅草寺の五重塔の横を通って、昭和40年代にトリップしたかのような店構えの店が並ぶ通りに出ると、提灯や旗が揺れる建物が。そう、今日の会場は寄席なのだ。

 つれれこ社中は、元セメントミキサーズの鈴木常吉などの3人組。編成は基本的にアコーディオン・三味線・マンドリンで、昭和の戦前歌謡のような、不思議な和風の味わいがするバンドだ。貧乏臭満ち溢れる曲ばかりなのだが、いわゆる「四畳半フォーク」のような辛気臭さがないのは、湿った自己憐憫が無いからだろう。1部は彼ら3人だけのステージだったのだが、鈴木常吉が食事に行ったまま戻ってこなくて、ガイタレ並みに開演が30分も遅れるという有り様。なかなかかましてくれた。

 2部は高橋鮎生という人がギターの弾き語り。しかし、歌詞が英語だし、異様にテクニックをひけらかすし、しかも弾いてる時の表情がヤバイし。そうしたスタイリッシュさが寄席での空気と化学反応を引き起こすどころか、滑稽なだけのような気がしてしまって、ちょつとツラかった。

 そして3部はいよいよ鈴木博文の登場。髪も短くしてやっぱカッコいいんだ、このオヤジ。今日はギターとハープだけでまず8曲(!)を弾き語り。その後関島岳郎と1曲、つれれこ社中と1曲共演。この人って、決して技術的に卓越してるわけではないのに、その声を伸ばした時の不安定な揺れや、ギターのカッティングの微妙な狂いなんかが、みんな「表現」に結実してる。そのくらい「うた」の力が強い。生音が届く4メートルぐらいの場所で聴いて、改めてこの人の凄さを感じてしまった。きっと本人はろくなオヤジじゃないんだけどね。

 出演者からのプレゼントの抽選会や落語(聞いててかわいそうになるぐらいウケてなかった)をはさんで、5部は再びつれれこ社中。今度はチューバの関島岳郎と、元フリクションのギターの「今井ちゃん」を迎えての雑炊サウンド状態。いっぱい食べてお腹一杯、といった感じのライブで、これで3300円という豪気さもお見事だった。



THE THRILL (3月7日 横浜BAY HALL)
 会場の横浜BAY HALLの周辺はまさに「湾岸」。高速道路やコンテナ、道を照らす夜警灯のようなライト、自分を囲む空間がすごく広い。いい気分で会場に入ると、いかにも「倉庫をライブスペースに改造しました」ってな感じの建物だ。一歩入ると、たくさんのピエロたちがおもてなしで、客に芸を見せている。ミラーボールが回り、歌謡曲やらラテンやら流れてて、クラブっぽいムードに気後れしそうだった。

 開演時間を20分以上遅れるという大物っぽい登場の仕方でスタート。実はTHE THRILLを聴くのは今日が初めてだったが、メンバーが16人で(当方調べ)、しかもそのうち10人がラッパ系というのはなかなか痛快。一斉に音が鳴ると、理屈抜きに気持ちいい。楽曲は明快で演奏もシャープ、そしてそれを可能とするのは各メンバーの高い技量なのだろう。

 そして、バンドのリーダーであるSAXのユカリは、言わずと知れた元JAGATARAのメンバー。ラメ入りのドレスや、ボディースーツみたいな衣装を身にまとってブロウする姿は、メチャクチャかっこいい。もう俺は惚れたね。JAGATARAは全部聴いてるってのに、遅すぎた出会いを後悔。

 今夜は「誘惑のセクシィ・ナイト」ということで、ダンサーによるSMまがいのパフォーマンスもあった。でも誰も脱がないんだもんなー。その点だけが不満…って全然音楽と関係ないけど。

 アンコールを含めて、1時間半ほどのステージ。短すぎず長すぎずの濃縮した感じが良かった。俺ももう踊り続けるには歳だしね。帰りは最寄り駅までバスで送ってくれて、採算が心配になるくらいの(大きなお世話だ)充実度だった。