ETC. Vol.2

水耕栽培日誌 '94-'97 〜カーネーション全アルバム制覇への長い道のり

94年4月2日(土)
 新宿ヴァージンメガストアで、THE SUZUKIのトーク&サイン会。「THE SUZUKI meets GREAT SKIFFLE AUTREY」を買えばサインがもらえると思っていたのだが、会場に行ってビックリ、オムニバスの「WOODSTOCK BREEDERS」も一緒に買わないと駄目なのだ。後者を買う気はなかったものの、サイン欲しさに2枚とも購入。マニアの受難。

 で、「THE SUZUKI meets GREAT SKIFFLE AUTREY」を聴いたら、メトロトロンのアーティストの曲がなんと11曲もボーナストラックとして収録されていた。こんな儲からないマネする酔狂ぶり、さすがだ。 中でも、初めて聴いた「Young Wise Men」って曲がキャッチーで気に入る。僕はここで初めて「カーネーション」という名前を意識したんである。もっとも、「WOODSTOCK BREEDERS」の直枝政太郎がそのカーネーションのメンバーとは、まだ気付くよしもなかったのだが。

5月5日(木)
 神保町のJANISで、「Young Wise Men」を借りる。友人にコピーしてもらった「ポップ・インズ」のバックナンバーで、名盤として挙げられていた一枚だ。ところが、期待と裏腹に、タイトル曲以外は、引っ掛かり無く終わってしまった。ありゃりゃ。

95年1月6日(金)
 同じくJANISで、鈴木博文の「first compactdisc」を借りる。彼のソロデビュー作「WANGAN KING」にボーナストラックを追加したもので、現在は廃盤。そして、このCDでしか聴けない「くれない埠頭」のバックは、カーネーションだった。アメリカの南部ロックっぽい演奏は、ライダーズと違ったワイルドな味わい。 (ちなみにこの「くれない埠頭」の音源は、後にベスト盤「1987-1994」に再収録。)

96年7月22日(月)
 インターネットのムーンライダーズ・メーリングリストで、大学時代の友人Tと同姓同名の人物を発見。メールを送ると、案の定本人だった。当時は音楽の話なんてしたことがなかったのだが、実はTが、ムーンライダーズとカーネーションと激コアなファンであることが発覚。インターネットは、こうして当人たちですら口にしなかった性癖を暴いてしまったのだった。

8月31日(土)
 あちこちで評判のいい「GIRL FRIEND ARMY」を、タワーレコードで購入。先着順のタワー特製7インチ盤はすでに無かったが、ミニライブの入場券はもらえた。

 その「GIRL FRIEND ARMY」、なんでこんないい曲ばっかなんだ。ピンと来なかった「Young Wise Men」に比べて、別のバンドのようにスケールがでかい。懐が深い。一聴して気に入って、そのままCDプレイヤーにのりっぱなしだ。

9月7日(土)
 Tとともに、タワーレコードのミニライブへ。実物はえらく男臭いバンドだなぁ。直枝なんて、いつあんなに筋肉をつけたんだ、レコードを腐るほど聴いてるはずなのに。

 僕の目の前には、ベースの太田譲が。なんか、演奏しながら自分の世界に入ってる人で、こちらも思わず目が離せなくなってしまった。

 「GIRL FRIEND ARMY」の曲中心で、ラストはなんと島倉千代子の「愛のさざなみ」!個人的に好きだった曲を、いきなり気が触れたようにノリまくって演奏され、「カーネーションあなどり難し」の思いを強くする。

 僕の想像を超えるほどディープなカーネーション・マニアのTいわく、「ほんとメジャーになったよ」。

10月23日(水)
 Tと、新宿ロフトプラスワンで開催された、サエキけんぞう司会・鈴木慶一ゲストのイベントへ。5時間以上に及ぶコアな話の連続に、頭がトロトロ。

 Tから、ムーンライダーズの本「フライトレコーダー」、LD「DREAM MATERIALIZER」とともに、カーネーション&政風会の「DUCK BOAT」を借りる。

 鈴木博文と組んだ政風会のテイストは予想通りだったが、デヴュー当時のカーネーションがこんなにナイーヴだったとは。現在のカーネーションとも、「Young Wise Men」の頃のカーネーションともまるで別のバンドみたいで驚く。

 それにしても、政風会のショットで、博文氏の隣にいる太ぶちメガネの男は一体誰なんだろう。どう見ても先日のミニライブで見た筋肉質男の直枝とは別人だ。俺は騙されないぞ。

10月19日(土)
 日本レコード協会主催の廃盤CDセールへ。このイベントでは、廃盤CDが定価の7割引で買えるのだ。

 今年はそれほど掘り出し物が無かったが、「天国と地獄」を900円で購入。

 早速聴いてみると…なんだこの音は!この屈折に満ちた退廃した世界は!なんで岡林信康や島倉千代子のカバーが入ってるんだ!てな驚きの連続で、もう最高だ。「GIRL FRIEND ARMY」の肉体感に溢れたサウンドよりも、こっちの方がずっと好みだ。もっともこれじゃ売れないだろうけどなぁ。なんでこんな佳作が、もっとしっかり評価されなかったんだろう。こういう音楽を「箱庭ポップス」とかいう紋切り型の表現で片付けてしまった音楽ジャーナリズムの未熟さも、彼らのこれまでの苦難の原因のひとつなんだろう。そして、そんな音楽ジャーナリズムの欠陥に気付かなかった僕のような聞き手にも責任はある。

 なにせ、今までカーネーションを本気で聴いていなかったことを後悔しまくっているのだ。床の上転げまわりたい気分だよ。

97年5月25日(日)
 渋谷LA-MAMAでの、鈴木博文・濱田理恵・青山陽一らによる「WARAJI LIVE」へ。来たる「メトロトロン・ワークス」の前哨戦のこの日は、他にも上野洋子・加藤千晶・つれれこ社中らも出演した。青山陽一のパートでは、西村哲也と現カーネーションの太田譲が登場して、グランドファーザーズを再結成。白熱した展開に、「ロッケンロール」も悪くないねぇなんて感じてしまった。

 そして実は、太田譲が元グランドファーザーズだったことを、ここで初めて僕は知ったのだった。ああ、石を投げないで〜。

6月10日(火)
 仕事帰りに渋谷でCD漁り。とは言っても特に目当ての獲物は無くて、こういう時は大概衝動買いに走ると決まっている。今日はレコファンで「DUCK BOAT」と「エレキング」の新品が2000円ぐらいで売っているのを発見、これ幸いと保護。

 で、この「エレキング」、屈折を漂わせながら躍動感もあって、世捨て人になる前のXTCのようだ。

 「GIRL FRIEND ARMY」の発売当時、読売新聞に載ったインタビューで、「極度にマニアックな音楽性で聞き手を限定しすぎていた」というようなことを直枝が語っていたけれど、本当にそうなのかなぁ?このアルバムなんて、「テレフォン・ガール」をはじめとして、キャッチーな曲が目白押しじゃないか。マニアックさとキャッチーさの両立なんて、そうそうできる技じゃないはず。しかも森高千里まで参加してるし、話題性も充分だったんだから、セールスの失敗はプロモーションの問題と考えるのが妥当だろう。(「天国と地獄」は確かにマニアックだけどね。)この時代の音楽性を否定するような発言は淋しいなぁ。

 なにはともあれ、「エレキング」は、毎朝の目覚めの1枚になってしまった。

6月13日(金)
 再び渋谷へ。今度は、「a Beatiful Day」の中古を1200円で発見、もやは運命の悪戯と思って購入。

 しかし、一聴した正直な印象は「あれ?」ってな感じ。いまいちひっかかりが無いまま終わってしまうのだ。「エレキング」を聴きまくった後だからかもしれないが、急に毒が消えてしまったような淋しさを感じる。特に、この健全極まりないサウンドは…。「GIRL FRIEND ARMY」だとOKなんだけど、この違いはどこから来るものなんだろう?単に僕が、健康的な音が苦手なだけかもしれないけど。

6月20日(金)
 ピチカート・ファイヴの「HAPPY END OF THE WORLD」、トッド・ラングレンのトリビュート盤「トッドは真実のスーパースター」とともに、「GONG SHOW」を購入。同じアーティストを1ヶ月に4枚買うなんて、前例の記憶が無いぞ。何をしているんだ、俺は。

 音楽的な貪欲さがはっきり見え始めた「GONG SHOW」は、ブリティッシュ・マニアの習作という感じだった前作から、ずいぶんと進歩している印象だ。とらえどころがない気もするのだが、その反面ついつい何回も聞き返してしまう不思議な魅力がある。彼らの代名詞のように語られる「夜の煙突」もやっと聴けたのが、この曲ってナゴムから出てたのか。ホントにマニア好み街道一直線のバンドだったんだなぁ。

 そして、サエキけんぞう・鈴木慶一・高野寛ら30組が参加した「トッドは真実のスーパースター」の中にも、カーネーションがしっかり参加していた。「A Dream Goes On Forever」を日本語でカバー、僕は原曲を知らないのだが、まるでカーネーションのオリジナルのようだ。小手先のアレンジに頼ることなく、ここまで咀嚼できる能力は凄い。このトリビュート盤の中でも、5本の指に入る出来栄えだと思う。

6月30日(月)
 僕は非常に強迫観念の強い人間だ。収集癖に火がつき、この1ヶ月ほどで、カーネーションを漁るように購入、残るはあと2枚だけとなってしまった。これも受難と観念して、「EDO RIVER」を2割引で購入。これでついにオリジナルアルバム制覇したからという、あくまで自分にとって合理的な理由づけをして、「WACKY PACKAGES」は手に取らず。だって、金無いんだもん(泣)。

 一番好きな「天国と地獄」と一番ピンと来ない「a Beatiful Day」の狭間の本作、聴いてみると結構いい。音の重心が低くて好みだ。1曲目のタイトル曲なんて、ラップっぽくて驚いてしまった。(ただし、ラップといってもヒップ・ホップのそれというより、ビブラストーンのそれという印象だけど。)前作の混沌を引き継ぎながら、男臭さ度は上昇、そしてソウルっぽい新機軸って感じか。

 このアルバムから方向性が変わったと言われていたけれど、「天国と地獄」と聴き比べる限り、そんなに違和感無いなぁ。確かに「エレキング」とはギャップが大きいけど。この頃、インタビューで直枝が「今までのファンはみんな離れてくでしょうね」と話していた記憶があるけれど、ホントにそうだったのかな?


 てなわけで、時間軸を無視してカーネーションを聴き漁ってみた。

 一通り聴いてみると、カーネーションってのは、サウンドの表層的なスタイルがアルバムごとに変化しているバンドだ。それぞれのアルバムでクオリティーの高い ものを目指して、そしてそれがある程度の完成を見せると、新たな展開を目指して再び過渡期に突入する。さながら賽の河原で石を積んでは崩しているようだ。

 そんな彼らは、音楽的にはいわば「根なし草」と言えるだろう。音楽への強い愛情と膨大な音楽知識の一方で、音楽的アイデンティティーが無いというジレンマ。でもそれって、日本のマニアックなバンド、というかマニアによるバンドの宿命だよね。直枝は「MUSIC MAGAZINE」でもライターやってたぐらいだし。

 実際、「エレキング」と「GIRL FRIEND ARMY」では、そのアルバムとしての性格はかなり違う。それでも僕が両方とも大好きなのは、そうしたジレンマと格闘する彼らの求道者精神に対して、僕自身がシンパシーをもって聴いているからかも知れない。

 「エレキング」や「天国と地獄」で屈折ポップスを一度極めた彼らが、その方向を敢えて捨ててまでやっている現在の路線、もっともっと突き抜けた音を聴かせてくれることを内心期待している次第なのです。

それにしても、政風会の太ぶちメガネ男は誰なんだ。

(JAN/20/98)

(この文章は、カーネーションのファンジン『JUNK MOBILE featuring CARNATION』に寄稿したものです。)