CD REVIEW Vol.35 NOV/1999



PIZZICATO FIVE "PIZZICATO FIVE" (*********)
 相変わらずアイデアが多彩であることを見せつけた「darlin' of discotheque e.p.」と「nonstop to tokyo e.p.」の2枚のマキシ・シングルに続いて登場するニュー・アルバムは、やはりアイデアを出し惜しみしていないがその中心に歌をすえて聴かせる作品だ。前作「プレイボーイ プレイガール」のゴージャスな雰囲気が戻り、サウンドも生楽器の響きに包まれてしなやか。「Good bye & amen」ではオリジナル・ラヴの田島貴男、「眺めのいい部屋」ではザ・コレクターズの加藤ひさし、「あなたのいない世界で」ではT.V.JESUSの有近真澄とデュエットしている。突然1曲だけボーカルが交替になる「パーフェクト・ワールド」では、弘田三枝子が歌謡曲っぽい喉の絞り方で熟女攻撃。名作「カップルズ」に収録されていた「連載小説」の再演は、原曲の物憂げで不器用そうな雰囲気が消えて余裕しゃくしゃくの歌と演奏で、それがちょっと淋しいような。

 そして、紳士たちにエスコートさせるかのような雰囲気が逆に浮き立たせるのは孤独感。このアルバムでピチカートの音楽がたたえているのは、絶望ゆえの明るさのような、ひとつの色彩にはとどまらない複雑なニュアンスだ。ポップス職人としての小西康陽の力量はもちろんのこと、イメージ戦略の上手さや卓越した編集感覚も、ピチカート・ファイヴというユニットの存在を世界的に際立たせている。その確信犯である彼が、シンプルな言葉で感情をストレートに表現するこのアルバムは、フェイクと本音の絶妙なバランスの上に成立していた。

(from『UNGA!』Vol.67改稿)



VARIOUS ARTISTS & YELLOW MAGIC ORCHESTRA "YMO REMIXES TECHNOPOLIS 2000-01" (VICTOR)
 リミックスという行為においては安っぽさも重要なエッセンスなのではないかと考えたのは、「YMO REMIXES TECHNOPOLIS 2000-01」を聴いたため。小西康陽による「TECHNOPOLIS」のリミックスは、音を厚くするならばいくらでも可能である彼があえて随所に安い小技を仕込んでいて、YMOを単なるネタとして扱ってしまえる自信すら感じさせる。同じアルバムでMotor Headphone (from Dragon Ash)やDJ HASEBEが手掛けているトラックの安さとは違うのだ。テイ・トウワの「RYDEEN」もドラマチックでいいけど、ちょっと背後のYMOの存在を気にしているような。ケン・イシイの「TIGHTEN UP」と砂原良徳の「SEOUL MUSIC」は比較的オリジナルを尊重しているけど、いい具合にリミキサーの色が出ている。ファンタスティック・プラスチック・マシーンによる「BEHIND THE MASK」は、ボーカルを足しちゃっててソウルフル。森俊彦による「PURE JAM」はラウンジ解釈で面白い。

 世に溢れるリミックス盤同様とっちらかった内容だが、原典を一通り聴いた人なら、怒ったり嘆いたりしつつも楽しめるんじゃないだろうか。こういうCDが出るのもアルファがこけたおかげということで。



JIM O'ROURKE "Eureka" (DRAG CITY)
 前作「Bad Timing」は、繊細なインストが多いので集中力をえらく要求されて疲れるアルバムでもあった。それに対して「Eureka」は、歌モノが多くて驚くほど叙情的。遠く近く揺らぎながら鳴る電子音と生ギターによって包まれた歌が胸にしみる。その一方で、サックスやヴァイオリンの響きが泣かせる「Through The Night Softly」や、瑞々しい「Please Patronize Our Sponsors」なども。日当たりのいい草原と真夜中のベッドルームを行き来するような、開放性と内省感を併せ持っている。そして1曲が終わっては次の曲へ緩やかにつながれていく、1枚の絵画のようなアルバム。前作に比べてずっと作り手の内面を見せている印象で、派手さはないものの控えめであるがゆえに切なさを増すかのような音楽だった。

 でもやっぱりアートワークは…。



PREFAB SPROUT "38 Carat Collection" (COLUMBIA)
 Paddy McAloonの歌声はいつまで経っても青年っぽいと思っていたけれど、2枚組ベスト「38 Carat Collection」を聴くとちゃんと落ち着いてきていることが分かる。それぞれ時間軸に沿って曲が並べられた2枚のディスクには、アルバム未収録曲や92年のベスト盤「A Life of Surprises」にのみ収録されていた2曲も収録。ストリングスを導入したりしながら成熟していく過程がよく分かる一方、ファーストである「Swoon」だけ持っていない僕には、初期のこなれていないボーカルと荒さの残る演奏が撒き散らすヒリヒリとした感じも新鮮だ。僕が彼らの曲の中で一番好きな「Wild Horses」が収められていないのは残念至極だけれど、「The King of Rock 'n' Roll」「Life of Surprises」「We Let the Stars Go」などの名曲が詰まっていて、これが輸入盤なら3000円以下で買えてしまうとは贅沢な話じゃないか。Thomas Dolbyがプロデュースしたあたりの音源はキーボード音が古臭く感じられるけれど、そんなことはこの美しい楽曲の数々の前ではたいした問題ではない。感情の隙間に入り込んでくるようなメロディーに浸ってみるのもたまにはいいものだ。



岡村靖幸 "セックス" (EPIC)
 「セックス」というタイトルは単刀直入すぎて表現能力の減退かと心配してしまいそうで、ジャケットもラブホテルの部屋案内パネルという単刀直入さ。やたら室内の装飾がケバいのが気になるが、これが楽曲の雰囲気と合っている。相変わらずファンクの粘液の中でもがくかのようなサウンドで、演奏する方も聴いてる方も窒息寸前になりそうな濃度。96年に発売された「ハレンチ」ほど一聴した際のインパクトはないし、シングル向きの曲ではないだろうが、健在であると同時に彼が全く懲りていないことを示すのに充分な作品となっている。同時に収録されている「セックス(old version)」と比べ、サンプラーあるいはテープ編集と思われる装飾音を排して太いビートを強調するアレンジとなっているのも、彼がまだ時代の音に意識的であることを物語っているかのようだ。

 カップリングの「せぶんてぃーん」は、一転してシンプルな演奏に。彼の公式ページの最新VOICEで発表されている、ギターの弾き語りによる曲と同様の感触だ。そして、自分を常に保護してくれる女性を歌うマザコンっぽい雰囲気が濃厚な歌詞。95年に「禁じられた生きがい」発表された頃、彼は援助交際や熟女ヌードに対する嫌悪感を表明していた記憶があるが、性の現実を露悪的なほどに突きつけてくる「セックス」といい、岡村靖幸は倒錯的なようでいて実は性に対する禁忌が強いのではないだろうか。しかしその一方で自分の欲望は否定しないために抱えてしまったやり場のないジレンマが歌に潜んでいるように感じられるのだ。

 針が振り切れんばかりにエモーショナルなボーカルには、玉置浩二との共通点を発見。



ムーンライダーズ "dis-covered" (DREAM MACHINE)
 昨年出た「月面讃歌」のオリジナル音源を収録したもの。ムーンライダーズのオリジナル音源を他のミュージシャンがリプロダクションした例のアルバムの元ネタが蔵出しされたわけだ。比較的素直なアレンジだが、時代を意識したものの逆にズレを露わにしてしまった「月面讃歌」よりもずっと自然に楽しめる。つまり「月面讃歌」の失敗を再確認するためのCDかも。ボーナストラックの2曲はまさに「リミックス」で、あの時欲しかったのはこういうサウンドの刺激だったと悔やまれる。



BECK "MIDNITE VULTURES" (GEFFEN)
 比較的穏やかなサウンドで歌を聞かせるアルバムだった前作「MUTATIONS」とは打って変わり、派手にして凝ったサウンドだが聴きやすくて驚いてしまった。しかもソウルフル。サウンドの細部に耳を傾けると相変わらず相当に変なのだけれど、それらが散在しているのではなくて、楽曲の中心に向かっているかのような鳴り方だ。変な音を鳴らすならば簡単なのだけれど、この音楽としての圧縮度がBECKのすごいところ。ちょっと80年代のPRINCEを連想したものの、音の粒子はBECKの方がもっと細かく、脈絡を越えた音楽的な引き出しの膨大さに気が遠くなる。闇鍋をアメリカ製ミキサーにブチ込んだようなサウンドを飾るアートワークは、ボアダムズのアイによるもの。