CD REVIEW Vol.34 (side A) OCT/1999



フィッシュマンズ "98.12.28 男達の別れ" (POLYDOR)
 フィッシュマンズの最後のライヴを収録した2枚組アルバム。どうしても佐藤伸治の死と絡めて語られてしまう運命にあるけれど、そうした情報や知識がなかったとしても楽しめる完成度なのは言うまでもない。ライヴ音源をスタジオで処理した「8月の現状」とは違い、ライヴそのままのミックス。メンバーの名前を連呼して音楽にしてしまうオープニングからして独自の世界だ。フィッシュマンズの音楽では佐藤伸治の高い声と歌い回しの印象が強いけれど、このライヴ盤ではバックのサウンドの縁取りが非常にはっきりしていることにも気付かされる。特に「LONG SEASON」では静かながら激しく歌とサウンドが拮抗していて、それは同時に不思議な揺らぎをも生み出し、こまかな音響処理が音の隙間を快感に変換していく。

 それにしても、飾ることを知らないのかと思うぐらいピュアな音楽だ。日常から零れ落ちるものに気がついてしまうからこそ外界との葛藤を多く抱え込みそうな世界。音楽を聴くのに感傷は不要とは思いつつも、今後の活動について語っているMCはやはり切ない。しかも、「MELODY」には「すぐに終わる幸せさ すぐに終わる喜びさ なんでこんなに悲しいんだろう」なんて歌詞まであるのだから。



サニーデイ・サービス "MUGEN" (MIDI)
 平日の昼過ぎに目を覚まし、今日は何をして時間を潰そうかと考える。いつもの癖でパソコンに電源を入れてしまうけれど、回線の向こうにあるのも形を変えた日常だ。情報を浴びることは決して身を軽くはしてくれない。そういえば、サニーデイ・サービスの歌に出てくる部屋にパソコンはなさそうだ。

 彼らの6作目となる「MUGEN」は、穏やかで柔らかな空気に包まれている。抒情はあっても情念はない。幾度となく他のアーティストと比較されてきた彼らだが、ここにあるのはすべての退屈な形容をすり抜けた自分たちの世界だ。膨大な情報の中から必要なものだけを選び取って咀嚼した結果であるこのサウンドは、着古したの服のように心地いい。

 歌詞に漂うノスタルジックな雰囲気は、少し現実離れしているほど。でも、僕らの考える「現実」って何だろう? そんなこともふと考えさせる歌たちは、ひとつひとつが短編小説のようだ。

 そして、音の微妙な歪みやザラつきは、サウンドがひそかに同時代的でもあることを物語っている。歌とサウンドのフィット具合、そして尖り方と丸みのバランスが絶妙なのだ。けれど彼らは、そんな先鋭性を前面に押し出すことはしない。恋の歌は唇を離れ、午後の陽射しの中に流れていくばかりだ。

(from『DOS/V magazine CUSTOM』Vol.3)



野坂昭如 "絶唱!野坂昭如" (P-VINE)
 1曲も聴いたことがないのにバクチ気分で買った、70年代のシングルやアルバムの編集盤。イントロが尺八の「マリリン・モンロー・ノー・リターン」には一瞬嫌な予感がよぎったものの、コーラスがやけに本格的でファンキーな曲だった。もうちょっとリズムを強調してくれれば言うことないのに。他の曲は、演歌というよりは歌謡曲のダーク面を濃縮したようなものが多い。「黒の舟唄」や「ヴァージン・ブルース」といった有名曲もそんな感じだ。「野坂昭如新古今集」からの4曲は演歌っぽいが、それもサウンドが定型化する以前の演歌といった雰囲気でそれほど抵抗を感じない。一方でシャンソンのような洒落た曲もあり、なかでも終戦当時を歌った「チュウインガム・ブルース」は気に入った。

 作詞が本人じゃないと知って残念だったけど、それでも厭世的な歌詞を微妙な下手さ加減で歌う野坂昭如という歌手は代替がきかなそう。個性的なのは文章だけじゃなかったようだ。



STEREOLAB "cobra phases group play voltage in the milky night" (ELEKTLA)
1曲目からブカブカドタドタ鳴っていて、生っぽいリズムが前面に。躍動的なエレクトロというと矛盾してるようだが、ここに存在するのはそういうサウンドだ。「ITALIAN SHOES CONTINUUM」はそのままTHE HIGH LLAMASの曲になっても良さそうだけど、違うのはボーカルの存在感とエレクトロ含有率。無闇なまでに実験を繰り返すリズムや、生音とエレクトロの他に類を見ない微妙なバランスがSTEREOLABのサウンドを生み出しているのは間違いないけれど、感情をそれほど表さないものの翳のあるボーカルが果たしている役目も大きいだろう。それにしても不健康そうな音楽で、身体に悪いものほど美味しいという事実を思い浮かべてしまう。



THE HIGH LLAMAS "SNOWBUG" (V2)
 STEREOLABと人脈が重なっているTHE HIGH LLAMASの「SNOWBUG」は、前作よりもポップスとしての輪郭がはっきりしている。楽曲を構成する要素ひとつひとつはすごく単純に聞こえるけれど、SEAN O'HAGANはそれが同時に鳴った時の魔法を知っているかのようだ。優しいメロディーとアコースティックな感触に包まれた演奏は、全ての明確な感情を拒みつつ穏やかに響く。確信に満ちたロマンチストの音楽は、狂気はあまり感じられない点で「SMILE」からは遠く離れているけれど、それでもどこか安心できないのだ。



ホッピー神山 "JUICE AND TREMOLO" (sonore)
 ホッピー神山のソロアルバムがなぜかフランスのレーベルから。CM用に作曲された楽曲を収めたものらしく、前衛的な弦楽曲やピアノ曲と、OPTICAL-8による真性オルタナティヴな曲が混在していてえらく振れ幅の大きいアルバムだ。ストリングスの麗しい演奏にしても微妙に不協和音を孕んでいて、演奏の途中でゲラゲラ笑ったり大声で叫び出したりする曲まで。そしてバンド編成でインチキ臭い民俗音楽要素をまぶしながらうねるように演奏する曲もあるのだが、どうにもこうにもアヴァンギャルドという点で世界観は見事に統一されているのだから因果なものだ。そうしたホッピー神山のセンスがポップに表現されている「TVCM 〜 The Chugoku Electric Pwer Co.」は特に楽しい。