CD REVIEW Vol.33 (side A) SEP/1999



MOUSE ON MARS "Niun Niggung" (Rough Trade)
 今年取材陣を引き連れて東京を徘徊していた猿は、ペットとして飼われていたものが逃げたか捨てられたかしたものだという話を聞いた。せっかく下地はできていたのに、あの猿は東京の市街で土着化することを許されなかったわけだ。MOUSE ON MARSの「Niun Niggung」のジャケットにも猿。こちらは、猿にコンピューターを操作させたような変な音が詰まっている。

 アコースティックギターが奏でられるオープニングにはJIM O'ROURKEの「BAD TIMING」を連想したが、その後はエレクトロ音塊を満腹するまでフルコースで並べてくれた。クラブで激しくダンスするためというよりは、自室での小躍り向き。でも小手先の音楽には持つことができないドラマが曲の中にあって、それでいてポップな楽しさもある。無愛想でも難解でもないけれど、それでいてけっこうハードなビートや混沌も隠されているので油断は禁物。室内楽のような知性派テクノだ。



stereolab & brigitte fontaine "calimero" (Duophonic super)
 喉の奥から絞るように出されるbrigitte fontaineの声の存在感は、stereolabのクールなサウンドによってより浮き彫りにされる。電子音に管楽器やドラムを加えたサウンドの乾き具合は、ズレやブレといった感覚を多く含む歌と対照的なのに、どうしたわけか相性がいい。個性の強烈なもの同士の、淡々とした共演は水墨画のような濃淡が入り混じっている。



INNERZONE ORCHESTRA "PROGRAMMEO" (TALKIN' LOUD)
 CARL CRAIGが描いた、テクノの皮をかぶった底無しの黒人音楽絵巻。生演奏と打ち込みの比率が曖昧で模糊とした音塊は、細分化していく音楽を繋ぎ合わせる作業をしているかのようだ。かなりテクノ寄りの「PROGRAMMED」もあれば、ジャズそのもの「BASIC MATH」やソウルフルな「PEOPLE MAKE THE WORLD GO 'ROUND」もある。どれにしても竜の這いまわるような太い音に貫かれているが、志は高くとも聴いていて息が詰まる面は否定できない。けれど音楽を縛る様々な固定概念から次第に解放されていく快感を最後に得られる作品でもある。



Abdel Gadir Salim "Le blues de Khartoum" (IMA)
 スーダン歌謡は、日本の演歌や音頭から湿気を取って軽快にしたような音楽だ。昔聴いた彼のウード弾き語り主体のアルバムとはちょっと違った趣きで、サックスやヴァイオリンも加えた編成でにぎやかに歌われている。丸みのある演奏と活きのいいボーカルによる音楽はマイナー調でも陽性。「Jamil al-sourah」のリズムアレンジも面白い。2曲あるウードの弾き語りでは、巧みなコブシ回しを楽しめる。



大友良英 "山下毅雄を斬る" (P-VINE)
 山下毅雄がアニメやドラマなどのテレビ番組用に書いた楽曲をカバーしたアルバム。最初は思いのほか普通で肩透かしを食らったが、オルタナティヴなミュージシャンを集めているだけあって、徐々にブッ壊れた世界へ向かっていく。「ジャイアントロボ」での遠藤賢司、「涙から明日へ」での山本精一などボーカリストの人選もいい。フリージャズが繰り広げられる「七人の刑事 PLOT-2」は痙攣と錯乱を呼び、NOVO TONOが演奏を務める2曲には激情が込められている。「ルパン三世 ワルサーのテーマ」に至っては、気の狂ったような音世界。悶絶し続ける菊池成孔のサックスは偉大だ。