CD REVIEW Vol.32 AUG/1999



矢野顕子 "GO GIRL" (EPIC)
 この人が歌うと、たとえそれが日常生活のほんの断片だったとしても、どうしてこんなに深みが生まれるんだろうか。「GO GIRL」を聴きながら何度もそんなことを考えさせらたわけで、それは何度も感動したと言い換えることもできる。

 録音・参加ミュージシャン・デザインなど制作面に占める米国率は非常に高いが、そこに「ホーホケキョ となりの山田くん」の主題歌「ひとりぼっちはやめた」が同居していても不自然さがないのは、彼女の懐の深さゆえだろう。Jeff Bovaとの共同プロデュースで、前作「Oui Oui」同様にサウンドはふくらみと硬さが適度にブレンドされている。

 タイトル曲の「GO GIRL」、そして「結婚も離婚も赤ん坊よりも/大切なことがある/今日を生きることだけは/だれにもゆずれない」と歌う「GIRLFRIENDS FOREVER」は、いろいろ乗り越えた人じゃなきゃ歌えないよなぁという感じの歌詞で、発しているエネルギーが特に強烈だ。また、「ICE CREAM,ICE CREAM」とBill Frisell作曲の「永遠のともだち」における「悲しみ」という言葉の重さと、それを包み込む暖かさといったら…。

 宗教くさいという声もあるけれど、やはり彼女の表現自体の純度の高さに僕は抗えないのだ。



テイ・トウワ "Last Century Modern" (east west japan)
 あの髪型とメガネであることに迷いを見せないのはやはりすごいことだと、音を聴きながら考えさせられたのは決して脱線ではない。UAやCHARAが歌おうが、不動の鄭東和的世界。ラウンジっぽくして適度にお洒落にすることも出来るだろうに、この音の芯の太さはなんだろう。ドラムンベース以降のリズムではあるのだけれど、ドラムンベースそのものを使わないところもさすがのセンスだ。マルチランゲージ音声合成システムなんてものまで使うフューチャー志向の先にあるものは、目と鼻の先にあるようでやはり架空の未来。たとえレトロな雰囲気を出す場合においても後向きではないのは、これまたすごいことなのだ。



シャカゾンビ "JOURNEY OF FORESIGHT" (avex)
 時に音の隙間がわざと大きめになるバックトラックに斬り込むラップは意外と少年っぽい声。ジャズネタやアブストラクトなサウンドのトラックが好きだ。B-BOYがB-BOY然としてるのも予定調和だけど、逆にナイーヴに呟いてみせるのもまた予定調和なんじゃないかと感じている僕には、「Warm or Cold」みたいな曲よりも、勢いと批評性が同居している「白いヤミの中」の方が素直に聴ける。



佐野元春 "Stones and Eggs" (EPIC)
 幕開けはデジタルソウルと表現したくなる「GO4」で、前作とのギャップが大きすぎて驚いた。しかも、妙に音が古いというか安いと思ったら、プログラミングをはじめとしてほとんど一人で作っている。他の曲も一人で制作している比率が高く、曲によってTHE HOBO KING BANDが参加するという形式。やはりバンドとやってる方がナチュラルな仕上がりだが、「驚くに値しない」は全部自分でやってるとは思えないほどバンドっぽい。

 より外の世界に目を向けて時代を意識した本作の感触には「VISITORS」を連想した。「メッセージ」なんて曲もあるし。ただ、ビート詩人然としながら言葉の選択の幅がやや狭い気もする。

 ラストの「GO4 Impact」は、ドラゴン・アッシュの降谷建志とBOTSが「GO4」を再構築したトラックで、彼らとの相性は意外と良好。そして複雑な気分にさせられる。ともかく、落ち着かないほど佐野元春の自己主張と野心に満ちているのだ。