CD REVIEW Vol.26 (side A) FEB/1999



坂本真綾 "DIVE" (Victor)
 イメージの束縛を逃れるように無色透明な坂本真綾の歌声をプロデュースしているのは菅野よう子。「走る」だけを取ってみても、ストリングやコーラスには西欧音楽の枠に囚われないニュアンスを感じるし、テクノっぽい音の取り入れ方もうまい。この曲に詰め込まれた音楽的情報量の多さに唖然としそうだけど、同時に普通のポップスとしても成立してしまっているのが菅野よう子の手腕だろう。この人って、表現衝動よりも器用さで音楽を作ってる印象も受けるんだけど、やっぱ聴きたくなってしまう音楽家だ。「Baby Face」や「Heavenly Blue」のような洒落たムードの曲もちゃんとある。「月曜の朝」のキーボード音は大味過ぎる印象だけど、狙ってるのかな。映像を喚起するようなサウンド作りには、本当に長けてると思う。

 リアルな感触で全編が覆われているとは言えないけれど、前向きで優しいムードとそこはかとない痛みのバランスが、単なる「18歳の声優のアルバム」にとどまらない心地よさを生み出している。



シトラス "スプラッシュ" (Trattoria)
 このバンド、メンバーが誰で一体何人いるのかさっぱり判らず、そもそもバンドなのかも怪しい。よれたような演奏に爽やかながら気の抜けた英詞の歌声が響く頭3曲には、ラッパをアクセントに加えたHEAVENLYという印象を受けた。ポップスかなりグシャッとしたサウンドなのに、全体としてはチャーミング。センスで聴かせるポップスというか、センスと心中するポップスだ。

 ところが4曲目「tuesday sunday, lazy jazz(featuring INAZZMA★K〜男社会絶滅二分前 MIX)」では、そのまんまジャズな演奏に野郎が延々と男の情けなさを感じさせる喋りを乗せるという変化球。突然過ぎるってば、変化が。ラストは、同じ曲をまともなボーカル入りでもう1回。酔って吹いてるんじゃないかという感じのサックスの、人をなめたムードが曲に小粋なアクセントを与える。何だかよく分からないけど、気持ちいいから何度も聴くことに。



カーネーション "Parakeet & Ghost" (COLUMBIA)
 「『エレキング』や『天国と地獄』は大好きだったけど、コロンビアに移ってからは…」なんて言っているかつてのカーネーション・ファン全員に再召集令を発動したくなるのが、彼らの新作「Parakeet & Ghost」だ。バッファロードーターとフイッシュマンズのファンも連れてこい!

 ストリングスの演奏をビートで切り刻んだような「はたして野菜はどうなのか?」と、ラウンジ感覚がねじれきった「Parakeet Kelly」という冒頭2曲を聴いただけで、ここ数年来の作品と大きく異なるサウンドに驚かされること必至。しかも2曲ともインストときていて、頭っから意外な展開だ。

 続く曲たちは、骨っぽい演奏に粘り気のあるグルーヴ、つまりは肉体感むき出し。これまでの音楽的要素を全部抱えたまま、さらにアレンジは大胆だ。テクノなポエムリーディングが派手に鳴る一方で、比較的シンプルな「Strange Days」が沁みるのだが、これとてサウンドはひしゃげ気味。とにかくエクスペリメンタルで、この攻撃的な姿勢がたまらない。これは共同プロデューサーの上田ケンジの力も大きいのだろう。キラキラあるいはギラギラと光る曲の数々、そしてスリーヴのデザインに、「ホワイトアルバム」を連想してしまった。

 コロンビア移籍後のカーネーションは、「GIRL FRIEND ARMY」でひとつのピークを迎えて、続く「booby」で再び混沌に身を投げた印象があったんだけど、「Parakeet & Ghost」ではその両方の要素が結実している。混沌をひとつの形へまとめあげ、アルバムとしての統一感も見事。このアルバムから溢れるエネルギーの放射熱を、耳から全身に流し込むべし。



さかな "Little Swallow" (Bad News)
 タイトル曲を聴いただけで、ソウルフルという形容はpocopenのようなボーカリストのためにあるのだと断言したくなってしまった。喉の奥というより胸の奥から発せられるような歌声は深く響き、さらにコーラスが重層的な音空間を作り上げる。音は決して厚くないけれど、水に絵具が滲んでいくような広がりと奥行きが一音一音にある。ミックスは、フィッシュマンズとの仕事で名を上げたZAK。「Happy Tuesday」では、絡み合うようなサウンドを聴ける。プロデュースは勝井祐二と高橋健太郎。勝井のクレジットを見た時には、この極めて個性的なサウンドにも納得してしまった。



SQUIRREL NUT ZIPPERS "Perennial Favorites" (mammoth)
 アメリカの退役軍人の郷愁を誘う音楽、あるいは酒場で流れている音楽、いやむしろ路上で耳にする方が似合っている音楽。そんなイメージを日本人の僕が勝手に想像してしまう、ブラスやヴァイオリンを含む7人編成バンドの98年作品。ジャズの色合いが濃く、スイング感が溢れるサウンドには猥雑さと洗練がともにあるのが魅力。開放的で下世話でもありながら演奏は引き締まっていて、普段は酔いどれてるくせに、決める時は決める二枚目みたいな連中だ。そうした個性が光っているだけではなく、ダウン系に展開していくアルバム構成も上手い。



サンデー&サンセッツ "祝再生(VIVA LAVA LIVA)" (ALFA)
 中学生だか高校生だかの頃、NHK-FM番組でやってた「日本ロックの歴史」みたいな番組で彼らの曲が流れた時のインパクトは強烈だった。なにせ、和風のメロディーやリズムを恥ずかしげもなくブチ込んでいたんだから、まだ音楽的免疫の無かった当時の僕は驚くのみ。その時流れた2曲は、サンディーのソロを愛聴するようになっても分からないままだったのだが、このCDに入っていた。

 80〜83年の作品を収めたベスト盤で、この時代は細野晴臣と久保田真琴の共同プロデュース。オーストラリアのチャートで8位まで登った「STICKY MUSIC」は、他の情報なしでこの曲だけ聴いたら、どこの国の音楽だかまず分かんないような雰囲気だ。クールな演奏に、サンディーの濃厚な歌い回し。レゲエや沖縄の要素も飲み込んで、それでいてキワモノとは思わせない度量の広さがある。サンディーと久保田真琴は、90年代に「MERCY」や「DREAM CATCHER」といった超弩級の傑作を生み出して当時のワールドミュージック・ファンを感涙させたもんだが、最初っからこうだったんだな。

 10年かそれ以上前に聴いたのは、「OPEN SESAMI」と「HEAT SCALE」。その程度の時間を一気に引き戻すだけのインパクトがある音楽だ。



"銀色夏生プレゼンツ1/バランス" (CBS/SONY)
 詩人として有名な銀色夏生は作詞作曲もやる人で、ここに収められたのも全曲彼女の作。応募テープを送ってきた女の子にそれを歌わせて、あえて素早く簡単に作ったというアルバムだ。発売は89年。

 一言でいえば、切ない恋の歌テンコ盛り。でも単に切ないってよりも、どこか生々しさを感じさせるような歌詞があるのが聞き流せない理由だ。斎藤由貴が「AXIA」というタイトルで歌い、このアルバムでは改題されている「かなしいことり」もまた然り。アレンジは、最近では篠原ともえの「MEGAPHONE SPEAKS」に参加していた長谷川智樹で、簡素なサウンドが特に上手いとはいえない歌と合っている。

 これ、銀色夏生の完全なコンセプト勝ちだろう。極東裏ネオアコの名作と言いたくなるほど、「青春」や「一瞬のきらめき」が詰まってる。それに、意図されたものじゃなく、結果としてネオアコっぽいのが素敵だ。