Vol.25 (side A) JAN/1999



TOM ZE "FABRICATION DEFECT" (Luaka Bop)
 デビッド・バーン主宰のLuaka Bopからアメリカ盤が出てるブラジルのミュージシャンで、なんでも60代らしい。思わず「嘘ぉ?」なんて声を上げてしまいそうなのは、アルバムを通してかなり変なサウンドを鳴らしてるから。メロディーは言葉の響きと相まって非常にブラジルらしいし、コーラスの使い方もわりと普通なんだけど、それ以外のリズムや声色の使い分けなどの部分が独特ときている。感覚最優先のサウンドなんだけど、総体としての気持ち良さもまた格別という不思議な音楽だ。

 あえて厚みなんて求めてないんだろうけど、結果として聴き手の想像力を刺激して来る。でもそれは「挑発」とはならないユーモラスさがあるわけだ。ロマンティックな「CEDOTADAR」みたいな曲もあって、どれも非常に良質なポップスなんだけど、オルタナティヴと呼ばれる欧米の音楽にも負けない刺激があるとはどういうことだ。しかもこの歳で。地球の裏側にはこんな音楽家もいるんだから世界は広いよなぁ。

 バイーアっぽい「XIQUEXIQUE」で緊迫感を保ちながら幕を閉じるのも心憎い。最後まで媚びはないのだ。



CARLINHOS BROWN "OMELETW MAN" (EMI)
 Marisa Monteのプロデュースで、いきなりブラジル音楽・夢の顔合わせ。硬質なリズムの響きは、これをロックと呼ばずに何と呼ぶと言いたくなるほど。驚くような新味は無いけれど、ラップとブラス入りの「Tribal United Dance」、ヘビメタみたいなギターと合唱の勢いで突っ走る「Cahorro Louro」などアイデアは多彩。力強く攻める一方で、「Hawaii e you」や「Soul by Soul」など、メロディーとストリングが溶け合う曲も多く、伝統色の強い「Mae Que Eu Nasci」まで顔を出す芸域の広さ。



CAETANO VELOSO "PRENDA MINHA" (POLYGRAM)
 歌声は伸びがあるけれど、決して歌自体は達者ではなくて、時として苦しげでさえある。でもその歌があってこそ、胸の隙間に入り込むようなメロディーが活きるのだ、と気付かされたライヴ盤。同じステージなのに、よくもこここまでというほど雰囲気は変わり、でも1篇の物語のように彼の世界が緩やかに紡がれる。ニュアンスに富んだ弾き語りには、頭がぼうっとしてしまいそう。彼の音楽(特にリズム)には、どこか幾何学模様を連想させるような複雑さ、場合によっては前衛性があるんだけど、見事にポップに昇華されていて、だからこそこの人はポピュラリティーを獲得してるんだろう。カエターノの紳士然とした上品さと、客席の盛り上がりが印象的だ。



"カリビアン・ポリフォニー ベネズエラ、極彩色コーラスの魅力" (VICTOR)
 ビクターの民族音楽シリーズの1枚で、ベネズエラの合唱を収めたアルバム。この南米の国で合唱が盛んだとは知らなかったし、そもそもベネズエラの音楽を聴くこと自体が初めてかもしれない。歌うのはベネズエラ中央大学オルフェオン・ウニベルシタリオって人達で、レパートリーはベネズエラの民俗的な器楽を多声曲にアレンジしたもの。クラッシックや現代音楽臭い部分もあるけれど、8分の5拍という聞きなれないリズムや、2種類のリズムが同時進行する複雑さには耳を奪われる。キューバ音楽に近い明るい哀愁があるなぁと思ったら、キューバやドミニカ、アルゼンチンといった南米一帯の音楽も取り入れていた。