Vol.24 DEC/1998



ブレッド&バター "BB★C" (Alfa)
 どんな顔合わせがいい結果をもたらすか分からないもんだと感心してしまったのが、ブレバタとカーネーションが組んだこのアルバム。どういう接点でこうなったのか知らないが、直枝政太郎と棚谷祐一がプロデュース、カーネーションが演奏を担当している。

 品のいいポップスというイメージのブレバタと、年々ワイルドになってる気がするカーネーションじゃ相性が合わないんじゃないかと思ったが、両者の長所がブレンドしてメロディアスかつ肉感的な仕上がり。岩沢幸矢・二弓ブロスのボーカルは生で聴いてもその正確さに驚かされる音程の良さと声の伸びだけに、リズム隊の存在感の強いサウンドに負けるほどヤワじゃなかったのだ。

 メロディーを重視したアレンジは「地下鉄」に気持ちいい広がりを与えてるし、「DEVIL WOMAN」や「ENDLESS STREAM」ではブレバタの翳の部分をヘヴィーなサウンドで引き出しているのも、このコラボレーションならではの面白さ。



SLAPP HAPPY "CASABLANCA MOON / DESPERATE STRAIGHTS" (VIRGIN)
 復活盤「Ca Va」で僕や周囲の若い衆まで惹きつけてしまったSLAPP HAPPYの、74年作と75年作のカップリングCD。ダグマー・クラウゼの声には今よりずっと張りがあるでちょっとビックリ。

 ヨーロッパ的哀愁を振りまきながら始まる「CASABLANCA MOON」は、清廉さと陰影が混ざり合い、単調の美を拒んだがゆえの色彩感の豊かさがある。響く音の艶やかなこと。書き出せば膨大な量になると思われる音楽的要素は、素晴らしく凝ったアレンジで表出され、厚く塗られた神秘的な油絵のような音世界だ。

 Henry Cowとの共演である「DESPERATE STRAIGHTS」では、さらに前衛性が表に出て、息詰まる瞬間もしばしば訪れる。サウンドのユーモアや柔らかさみたいなものは後退しているが、硬質でクールな構築性に感嘆。マジすごいって。



"ATOM KIDS Tribute to The King O.T." (WARNER)
 手塚治虫の生誕70周年に発売されたトリビュート・アルバム。アニメ主題歌などのカバーと書き下ろしから成る全17曲入りで、参加アーティストの数はそれ以上にのぼるんだけど、レベル的にはそれなりに安定していて楽しめた。この手のアルバムでいつも感じるのは、対象への遠慮無しに各自の音楽的なエゴが噴き出してるような曲の方が面白いってこと。もちろんトリビュートの相手への敬意も必須なんだけどね。

 想像もしなかったCOSA NOSTRAと忌野清志郎との共演「少年マルス」は、ソウルフルで意外な相性の良さをみせる。もろラウンジで薬物摂取による多幸感を漂わせるのは、野宮真貴+DIMITRI FROM PARISの「わたしはメルモ」。高木完の「スペースジャイアンツのテーマ」は、ゴリゴリと攻めて男気充満で、この曲にはYOU THE ROCKとシャカゾンビのツッチーも参加してる。CIBO MATTOの「ふしぎなメルモ」は無表情っぽくてすごく妙だけど、容赦なく自分たちの世界に引きずり込むのはさすが。

 この中では最年長?の細野晴臣はさすが目の付け所が違っていて、その名も「Omukae de gons」。こういうユーモアに富んだ彼の曲って、久し振りに聞いた気がする。ボアダムスの「ジャングル大帝」は思いの外まとも…と言っても、このアルバムの中では異世界を形成してるけど。彼らの視線はジャングルどころか宇宙を向いてるな。トリの佐野元春は、かつての「ELECTORIC GARDEN」を思い起こさせるポエム・リーディング。最後の一節がかなり素晴らしくて、下りてくる幕は涙色。心憎いね。



ダリエ "Darie" (biosphere)
 濱田理恵が「ダリエ」に改名、そして実に9年振りのアルバムも「Darie」というタイトルで発表された。西村哲也・武川雅寛・夏秋冬春・矢口博康・大田譲ら、6月2日の渋谷クラブクアトロでバッキングを務めたミュージシャンが中心になって共演しているけれど、アルバムの趣はライヴでの生演奏とは大きく異なっている。そんな当然のことにも驚いてしまったのは、最近の彼女はずっとライヴだけのアーティストだったから。以前栗コーダーカルテットとのステージのために書き下ろされた「電線」は、アルバムでも栗Qが参加していて元のイメージに近いけれど、これまでピアノの弾き語りで披露されてきた「微熱」「SECOND CRY」は、リズムの打ち込みなども含め、だいぶ印象が違う。息詰まるような瞬間が充満していたライヴでの演奏に比べ、全体的にややリラックスしたムードだ。でも、あくまで「比較的」ということで、気を抜くとガツンとやられるので御注意を。

 「Darie」はいくつかのものを消し去り、いくつかのものを露にする。ここに収められた歌たちは、ただひたすら愛を唄うための歌であり、安易なイメージの束縛を拒絶した歌だ。存在するのは、マーケティングを前提としない音楽だけが持つ純度。歌の中には、歌い手や聞き手の年齢も関係なくなってしまうような、少女のような感覚と毒が同居している。

 一方で、決して難しい言葉や言い回しは使っていないのに、歌詞のイメージは非常に豊か。「そんな女に私はなりたい」「サメの憂鬱」などではユーモアを漂わせ、「小指の約束」ではある種の恐怖を感じさせる。呼び起こされるのは、日常では無意識に封印している負の感覚。そんな一面に気付いても、甘い歌声と、絡まるように耳に残るメロディーのために聴き返さずにいられない。なんか自分がマゾにでもなったかのようだ。

 ややこもったような音は、もちろん湾岸スタジオから。鈴木博文もベースを弾いている。それは、体温のこもったリアルな生活の音でもあるのだろう。



SPOOKEY RUBEN "What's a boy to do?" (TVT)
 音楽には「箱庭ポップス」という定義があって、一度そこに押し込まれてしまうとなかなか正当な評価を受けられなかったりするんだけど、SPOOKEY RUBENもそのひとりかも。「どおしよっかなぁ」という邦題が付けられた彼の新作「What's a boy to do?」は、ゲストも迎えて前作「Modes of Transportation - Vol.1」より肉体的。まぁ宅録派がだんだん生音を増やすってのもお約束みたいなもんだけど、僕はこういうの大好きだ。

 ヒネりの効いたメロディーは当然のような顔してキャッチー、時代のサウンドを適度に吸収しながら、サンプリングにはユーモアを漂わせていて、あくまでフットワークは軽い。つまり情報量の仕切りが抜群に巧いのだ。しかも快楽原則を押さえまくってる。「Why Did I Do What I Did?」には、aphex twinの「Alberto Balsam」を連想したりもした。

 XTCあたりの名を出して語られがちなミュージシャンの中でも、彼は頭ひとつ抜けてる。これ、一部のマニアだけ聴いてるんじゃもったいないアルバムだよ。



浅川マキ "闇のなかに置き去りにして -BLACK に GOOD LUCK-" (東芝EMI)
 長い黒髪にサングラス・黒のコートという黒づくめの女の、深い皺に挟まれた唇から流れ出すのは、全てを飲み込んだゆえの艶がある歌。闇の中から流れて来るようでありながら淀みはない、そんな不思議な歌声だ。

 ジャズとかブルーズとかシャンソンとかいうよりも、なによりも浅川マキというべき歌の世界を支えるのは、土方隆行・本多俊之・渋沢毅といったメンツ。歌と共に世界を描くことに細心の注意を払ったと思われるアレンジと演奏が歌に寄り添う。

 清水俊彦の詩を原作とした「別離 一本の毛髪にぶらさがる記憶のように」や「無題」といった曲があるほか、「愛さないの 愛せないの」は寺山修司の作詞。客席に誰もいない舞台での一人芝居のように、それらを浅川マキは歌い、語る。

 「いい感じだろう、なぁ」のセリフには思わず溜息、なんてカッコいいんだろう。酒場の路地に迷いこんだ小僧のような気分になって、自分がまだまだガキだと思い知らさせてしまった。