Vol.23 (side B) NOV/1998



"BELEZA TROPICAL 2 NOVO! MAIS! MELHOR!" (LUAKA BOP)
 僕が最初に買ったワールドミュージック系のアルバムは、このシリーズの「1」だった。DAVID BYRNEの編集によるブラジルのアーティストのオムニバスで、メンツはかなり豪華。サウンド面でも意欲的な連中を新しい録音中心で収録している。

 Lenineは敢えて渋い曲をチョイスされていて、Os Paralamas Da SucessoはレゲエDJみたいな歌い回し。Margareth Menezesも勢いと迫力を感じさせるけど、Chico Science & Nacao Zumbiの熱さ別格だ。Gonzaguinhaはアフリカっぽい。シンプルだけど不可思議なサウンドと歌で独特の世界を作るTom Zeは、このアルバムで最も気に入った。Daniela Mercuryはメタリック・サンバ。Calos Caregaが穏やかにニュアンス豊かに歌えば、Sergio Mendesはパーカッションをバックにクールにラップし、Meleque De Ruaはアクの強いダミ声を聴かせる。

 エフェクトが歌の深みを増すArnaldo Antunesといい、美しいメロディーだけじゃ満足できない意欲的なサウンドの音楽が詰まってて、それはGilberto GilやCaetano Veloso、Marisa Monteといった他の大物にも共通している。全体的には、パーカッシヴでエレクトロな未来派志向がうかがえるかも。ブラジル音楽の面白さを再確認できる、かなりの好編集盤。



中村一義 "太陽" (Mercury)
 昨年発売された中村一義のファーストアルバム「金字塔」は、ある時期の僕の生活のサウンドトラックとなってしまうほど繰り聴いた。そしてやっと届いた新作では、シングルに収録されていた曲が15曲中6曲を占めているので、シングルを全部買っていた僕にはやや新鮮味が無いけれど、この「迫ってくる」度合は凄いと改めて感じる。

 天才論争とか、アーティストの抱える物語に対する過剰な意味付けには興味なんて無い。けれど、あとちょっとメーターの針先が傾いたら狂気に突っ込みそうなギリギリところで生み出されている歌には、素直に胸を震わせたくなる。「indies magazine」では「自己啓発セミナーみたいになってきた」というようなことを書かれていたけれど、確かに歌詞は気恥ずかしい。前作に比べても、ヒネた言葉が減った気がする。でも目を逸らしたくなるような類のものじゃないのは、それが闇と背中合わせであることを感じさせるからだ。

 朝本浩文・高野寛・仲井戸麗市・曽我部恵一が参加した演奏は、サウンドも厚過ぎず薄過ぎず、相変わらず音の組み立てや密度が絶妙だ。コーラスの重ね方にも鳥肌が立つ瞬間がある。「魂の本」や「あえたこそ」は、演奏の微妙な粘り気が耳をひくし、「再会」や「日の出の日」では、彼のソングライティングの冴えを感じることができる。ラストの「いつも二人で」でのKYONのピアノもいい。

 短いインストに春夏秋冬の名が付けられていて、いかにも日々の生活から紡ぎだされた歌を集めた趣きのアルバム。タイトル通りに光を感じさせるけれど、それは直視する者を選ぶほどに眩しい。



三上寛 "BANG!" (URC)
 「このレコードを私に下さい」を聴いた瞬間には、このフォーク臭はダメかと思ったけれど、終盤にさしかかる頃にはもう一度聴こうと決めていた。これはフォークではなく、73年に世に送り出されたアヴァンギャルド精神の結露だ。その脇には山下洋輔が控えている。

 三上寛の歌い回しはしゃくり上げるようであり吐き出すようであり、滑らかさとは無縁だ。冷めたリズムと裏腹に「華麗なる絶望」荒れ狂う。「BANG!」ではサウンドコラージュの中で叫び、友部正人作の「密漁の夜」ではつぶやくように歌い、「なんてひどい歌なんだ」は坂田明のサックス絡み合ってはいつくばる。

 一歩間違えれば狂人の歌だ。情念がドバドバと押し寄せるが、それに流されない冷徹さを持ち合わせていたからこそ生まれ得たアルバムだろう。



JIM O'ROURKE "BAD TIMING" (DRAG CITY)
 Gastr Del Solの元メンバーゆえに音響派っぽいのかと思っていたけれど、意外にもカントリーっぽいじゃないか。そう思うと奥の方で変な音が鳴っていて、音像は探ろうとするほど姿を失っていく。1曲目「There's Hell In Hello But More In Goodbye」を聴いてると、表層から記憶を探られていくような錯覚に陥いる。

 ペダルスティールやブラスが鳴って、日の当たる表通りに出たような華やかさの「94 The Long Way」とは、つまりアメリカの道だろう。「Bad Timing」でのキーボードはミニマルっぽくて、音響派も大衆音楽も同次元に配列して混合したような曲だ。

 緊迫感を孕みながら明るいエンディングへ向かう「Happy Trails」は、ロードムービーを観ているよう。しかも、1コマずつ細部まで作り込まれた映画だ。



ホーカシャン "薔薇より赤い心臓の歌" (MIDI)
 伊藤ヨタロウと濱田理恵のユニットの、4曲入り(1曲はカラオケ)マキシシングル。3曲ともヨタロウの作詞作曲で、楽曲自体は特に個性的ではないと思うけど、演奏と歌を通過すると独自のムードになってくる。ヨタロウのヨレたような歌い回しと濱田理恵の甘い歌声が溶け合って、貧乏臭さと優雅さが不思議に調和。結果として、午後の昼下がりのテラスに流れてもよさそうな緩やかな音楽になってるから不思議な化学反応だ。



Wondermints "Bali" (NeOSITE)
 ファーストがどうしても好きになれなかったWondermintsは、この3枚目では打って変わって耳に引っ掛かる音を鳴らしてる。宣伝文句にBrian Wilsonを使い過ぎじゃないかって気もしたけど、この内容ならとりあえず文句はないや。

 ラウンジにエキゾにモンドと記号の並列で説明できちゃいそうな部分が弱みとも言えそうだけど、癖の無いメロディーにハードさも持ち合わせた演奏で、「Cellophane」みたいな曲をやられると弱いんだ。この60年代カラーは反則寸前。時々チラつく粒の粗さが嫌いじゃないので、もっと弾けたっていいじゃないかって気もしたけどね。



岩沢幸矢 "ベアフット" (Dolce Music)
 ブレッド&バターの兄の方のソロアルバム。ブレバタは、ピチカート・ファイヴの「プレイボーイ プレイガール」に参加し、カーネーションが全面的にバックアップしたアルバム「BBC」も発売されるなど、にわかに旬の雰囲気を醸し出し始めたオヤジ兄弟デュオだ。

 聴いて驚いたのは、恐ろしいほどのピュアさ。皮肉ではなくて、とても歌の世界の完成度が高いのだ。茅ヶ崎や鎌倉を舞台にした、海のそばに住んでる人にしか作れないムードのアルバム。風通しがいいのは、歌の抜群の巧さと高くて甘い声質を、自身が認識した上でソングライティングをしているからなのだろう。どのメロディーも非常に冴えてる。

 音楽的なスリルに期待するような作品ではないけれど、インディーズ・レーベルのドルチェからの発売であっても、「Silver Wing」のシンセ音の安っぽさが惜しい以外は、とても丁寧なサウンドだ。細野晴臣・林立夫・松原正樹らも参加している。

 「Hello Oldies」から、細野晴臣がマリンバも演奏する「アレハ?」、そして「Silver Wing」へと影のある曲が続く中盤の流れが好きだ。たまには、屈折から遠い音楽もいい。