Vol.21 (side B) SEP/1998



椎名林檎 "歌舞伎町の女王" (東芝EMI)
 ひなびた雰囲気とクセのある歌い方。そして、普通使わないだろそんな言葉って感じの語彙を駆使した歌詞は、見事なストーリー性を持ってるんだから、そのインパクトの強さと存在感は必然だ。アレンジは本人じゃなくて、そっちの方はやや凡庸なのが惜しい。これでもうちょいサウンドに面白さが出てきたらいいんだけど。

 カップリングは、シンディー・ローパーのカバーと、新宿コマ劇前での実況録音。後者みたいなマネしてるCD、初めて聴いたぞ。度胸の良さと度量の深さに愕然とさせられる、恐るべき19歳。



山本精一&PHEW "幸福のすみか" (WAX)
 NOVO TONOの「夢の半周」コンビが、アルバム1枚まるごとコラボレーション。山本精一が作曲と演奏、PHEWが作詞と歌を担当している。

 平板な歌に素朴という言葉がよく似合う演奏で、羅針盤ほど正面切ってポップじゃないけど、部屋の真ん中にただ歌がポンと置かれているような、過不足無しの清貧なる歌。ラストの「幸福のすみか」も、9分もあることに気付かされないほどだ。薄いサウンドでも不思議なスケール感があって、奇をてらわずともねじれた詩と呼応する。

 山本精一が歌う曲もあるけれど、これまた朴訥。童謡みたいな「ロボット」や、「夢の半周」と通じる詩世界の「バケツの歌」の歌詞も、簡潔にして深い。



ピチカート・ファイヴ "プレイボーイ プレイガール" (*********)
 小西康陽は新機軸マニアってイメージがあったけど、コンセプト云々をマニアどもに指摘されなくても構わないような、堂に入ったポップス・アルバムを届けてきた。ドラムンベース導入でハッピーサウンドだった前作のように音楽的な新機軸はないけれど、ゴージャスなサウンドと普通にいい歌で押し通している。細川俊之・ブレッド&バター・池田聡なんて人選は、ピチカートじゃないとなかなかサマになるもんじゃないぞ。

 「きみみたいにきれない女の子」も好きだけど、地味な社会事象を取り上げることによって、逆に野宮真貴というキャラクターのハイソ性を印象づけるのに成功している「不景気」の歌詞のヒネ具合にも感心してしまった。「策士、策に溺れる」というけれど、当代随一の策士である小西康陽はよほど水泳が得意とみえる。不景気も泳ぎ切っていくんだろう。



ELVIS COSTELLO WITH BURT BACHARACH "PAINTED FROM MEMORY" (Mercury)
 これは困ったことになった。バカラックのメロディーとコステロの歌声、しかもアルバムまるごと1枚だ。胸の隙間を急いで閉ざさなきゃ、涙を絞り取られるぜ。ベタな表現だなんて笑ってる場合じゃなくて。

 バカラックの編曲と指揮によるオーケストラ編曲は、過剰な装飾を排していて、抑え目にして美しい。そしてコステロの歌も、それに寄り添うような繊細さだ。背後で鳴るピアノを弾いてるのもバカラック。

 コーラスとかは特にスタンダード臭が強いんだけど、そんな色にもあえて染まりきるのがコステロの逆説的なラディカルさだ。



JONI MITCHELL "TAMING THE TIGER" (Reprise)
 たまにその人自体がジャンルになってしまう人がいる。波間で揺れているような、さり気なく複雑なリズムの「HARLEM IN HAVANA」で始まるこのアルバムを聴くと、JONI MITCHELLもまたそういうミュージシャンのひとりだという気がしてくる。

 ジャズの影響を論じることも出来るだろうが、豊かに響く音のニュアンスや微妙な間、そしてハスキーで張りのある声に満たされた音楽を聴いていると、快さにすべてを忘れてしまいそう。サックスをはじめ、なぜ彼女のアルバムで鳴る楽器の音は、これほど膨らみがあるだろうのか。

 穏やかな印象の曲が多くて安心していると、「LEAD BALLOON」ではいきなり「KISS MY ASS」なんて歌い出したりもする。冬の晴れ渡った日の青空、あるいは頬にあたる冷たい風のような、凛とした音楽。



FELA KUTI "NA POI / ZOMBIE" (VICTOR)
 体液とマリファナの煙が生み出したリズム、フロム・ナイジェリア。70〜71年頃に録音されたレア盤「NA POI」と、名盤として名高い76年発売の「ZOMBIE」のカップリング盤だ。

 「NA POI」はなんかブラスがフラフラしてる部分もあるけど、長尺好きというよりも遅漏気味と言った方が似合いそうな25分のグルーヴ四十八手で攻めまくり、喋りも入れながらガーッと盛り上げて昇天させる。よりタイトに攻める「YOU NO GO DIE UNLESS YOU WANT DIE」はパーカッションのリズムに昂揚。

 そして血管の浮き出るほどの怒りが込められた「ZOMBIE」は、12分を瞬く間に過ぎ去らせてしまう。押しの一手だけじゃなく引きも心得た、呪術のようなグルーヴだ。ねちっこい「MR FOLLOW FOLOW」は、さながら後戯のごとし。



上原知子&りんけん "旅" (SONY)
 シンセの古めの音色感覚は相変わらずだけど、上原知子の絶妙のヴォーカル・コントロールを堪能できるよう、非常に丁寧に作られている。「照る月ん美らさ」などでスティール・ギターも取り入れられ、太平洋周辺の島々との繋がりも、控え目にサウンドに潜む。りんけんバンドと違ってプログラミング主体で、「月や一つ」の激しいリズムアレンジにはちょっと驚いたし、サウンド的な意欲はいまだ衰えてないのが照屋林賢のすごさ。沖縄テクノの「囃子」は、まるでYMOの「ABSOLUTE EGO DANCE」みたいだけど。

 ただ、りんけん関係ってジャケットがダサ過ぎだよなぁ。なんとかならんか。