Vol.17 (side B) MAY/1998



ヤン富田 "MUSIC FOR LIVING SOUND" (FOR LIFE)
 DOOPEESでスキモノたちを狂喜させたヤン富田が、久々にソロ名義で発表したアルバム。なんと4枚組の超大作だ。

 環境音や風によって演奏されるハープ、日光や人体の電気信号を音楽信号に変換したものから、果ては人工知能を持ったサウンド・ロボットなんてものまで登場する。テープ、ターンテーブル、スティールドラム、コロンビア大学の巨大なコンピューターといった広義の楽器類のみならず、音を出さないものにまで、ヤン富田は音を感じているようだ。そうしたトラックと、DOOPEESのメンバーたちがヴォーカルをとる歌モノが混在していて、なんかシャッフル方式で洗脳されている気分になってくる。いつのまにか頭の奥にまで染み込んでくる感じだ。また、自然とか宇宙とかに目を向けた音楽ってのは、ニューエイジ思想の匂いがすることが多いけれど、この作品にはそんな押し付けがましさが全く無い点も特筆しておきたい。

 さらにCD-ROMもよくできていて、特にこれまでのヤン富田の活動をまとめたムーヴィーは嬉しかった。いとうせいこうとのライヴの映像もあるし、動くキャロライン・ノヴァックも初めて見た。オールCGによる未来志向のムーヴィーもあって、5000円で採算が取れるのか心配してしまうほどのコンテンツが詰まっている。



砂原良徳 "TAKE OFF AND LANDING" (KIOON)
 美しいまでの情報量の仕切り。ストレンジサウンド&テクノの砂原良徳も、ヤンと方向性がちょっと似ているために引き出しの多さを比較してしまいそうになるが、砂原は素材をより洗練された形に変換するという点で富田と大きく異なっている。

 夥しい数のサンプリングが生み出す、無機質で肌触りの冷たい人工の美。音響処理は空間処理をしてるかのようで、高音から低音までバランス良く調えられたサウンドの耳への気持ち良さは抜群だ。ノイズが入り乱れる「SONY ROMANTIC ELECTRO WAVE」のようなトラックがあれば、そのままFMから流れてきそうな歌モノもある。実験的でありながらメロディーもいいし、この洗練された情報さばきには感情までコントロールされてしまいそうだ。賛辞として「イジーリスニング」の形容を贈ってもいい。



森高千里  "今年の夏はモア・ベター" (zetima)
 細野晴臣の前面プロデュースによるこのアルバム、ここ数年の細野の仕事の中でも一番いいかもしれない。テクノとR&Bが合体した「東京ラッシュ」のちょい濁った音からして、90年代でも細野が生きた音を作れることを宣言してるかのようだ。はっぴいえんどの「風来坊」のカバーにしても、今でもこんな瑞々しいアレンジができる細野の感覚に驚いた。つくづくバケモノみたいな人物だと思う。

 森高って、キャラは面白いけどサウンドが安っぽいというイメージだったんだが、この作品ではそんな心配は当然無用。高橋愉一が作曲した「夏の海」は普通の森高の曲みたいだけど、エッジが立った音で細野は抗戦。「ア・ビアント」にコシミハルを引っ張り出すという大技まで見せている。

 そして注目すべきは森高の恐いもの知らずぶりだ。細野相手だろうが、「Hey! 犬」など彼女の詩の世界は相変わらず。グレイト。

 この両者のエゴというか芸風がにこやかにぶつかりあった、不思議なエキゾチカ・ミュージック。



SEAN LENNON "into the sun" (Grand Royal)
 最初に聴いた時は、思いのほか薄口な印象に拍子抜けした。浮遊感があるような沈み込むような、気だるい雰囲気。午後の白い陽射しを浴びたような歌たちだ。

 プロデューサーは、チボ・マットの本田ゆか。グランドロイヤルにしてはおとなしく感じてしまうが、打つ込みやサンプリングが嫌味なく使われていて、時にゴリゴリした音も前面に出る。ジャズやボサノヴァっぽい曲もあって、それが微妙に霞んだサウンドで奏でられると不思議な気持ち良さがある。

 憂いをおびた英国メロディーの「part one of the cowboy trilogy」を聴いたら、やっぱ声がレノンに似てるなぁと思った。



ボアダムス "スーパー アー" (wea)
 太陽に祈りを捧げる古代人の音楽みたいだ。そんなもの聞いたことがないんだが、原初的な音楽衝動が作品にまで昇華・構築されているような印象。「SUPER ARE」の歌なんて、少数民族の音楽みたいじゃないか。「SUPER COMING」は辛うじてロックっぽいが、それでもどういう曲作りをしてるのかと頭をひねってしまう。作曲というより、むしろ共振や共鳴といった感覚が先にありそうだ。聴き手の音楽理解度を鬼のように試す音楽でもあるので、理屈をこねないで楽しむのが吉。一万年前の人間も、一万年後の人間も聴けてしまいそうな音楽で、音で聴くアニミズムかもしれない。

 関係ないけど初回盤ビニールパッケージは、袋にくっついて出すのが面倒。