Vol.17 (side A) MAY/1998



ムーンライダーズ "ANTHOLOGY 1976-1996" (メディアリング)
  シングル・ヴァージョンやライヴ音源、入手困難なアルバムの楽曲まで含む2枚組ベスト。オリジナル・アルバムでは聴けない曲が全36曲中9曲を占めるているし、ジャケットは貞本義行だしで、まさにマニアの所業といった感じだ。ライダーズの場合、デビュー盤が「火の玉ボーイ」からか「ムーンライダーズ」からか意見が分かれるところなのだが、しっかり「火の玉ボーイ」の曲から最新作まで20年分の録音を網羅している。「GYM」なんて、このベストで初めてじっくり聴いた。

 僕の場合、70年代の彼らのアルバムってあまり熱心に聴いてなくて、むしろ80年代の「マニアマニエラ」以降が好きだったんだが、和太鼓とストリング入りの「スパーリングジェントルメン」、気だるいムードの「バックシート」などなど、若気の至りと先鋭性が同居する70年代の楽曲の魅力を再発見させられた。

 「BEATITUDE」のライヴ音源では、ボーカルの音程がやや不安定なのが残念だが、それを除けば非常に充実した内容の編集盤だと思う。



ムーンライダーズ "かしぶち哲郎 SONG BOOK" (メディアリング)
 以前からかしぶち哲郎はかなり奇妙な人物だと思っていた。自然体なのか確信犯なのか判断できないエッチな歌の世界、怒涛のような叙情性。「ANTHOLOGY 1976-1996」と同時にリリースされた「かしぶち哲郎 SONNGBOOK」は、その名の通りムーンライダーズにおけるかしぶち楽曲を集めたものだ。数曲は「ANTHOLOGY 1976-1996」とダブってるけど、「Beep Beep Be オーライ」「スカーレットの誓い」「Frou Frou」はヴァージョン違いという編集が心憎い。

 一見穏健そうな彼だが、音楽は無国籍でエッチな世界が全開。熱帯の楽園から極寒の最北まで、青春の旅立ちから一夜だけの恋まで、さまざまなイメージがぶちまけられたキャンバスのようだ。「DON'T TRUST OVER THIRTY」にインストとして収録されていた「CLINIKA」はヴォーカル入りヴァージョン。初期における無国籍サウンドの中では、「トラベシア」は出色の名曲だ。彼の耽美性の結晶である「D/P」が収録されているのも嬉しい。



SONIC YOUTH  "a thousand leaves" (DGC)
 僕は彼らを聴くのはこれでやっと4枚目という不勉強なリスナーなのだが、これにはマイった。朦朧とサウンドが渦巻く冒頭からしてESPのフリージャズみたいだ。

 「SUNDAY」の間奏のギターなんて、空の果てまで飛んでいっちまいそう。タイトでラウドなのに、同時に不安定さと歪みがが混沌としていて、言語化することなんて忘れて聴いてしまいたいほど、ひとつひとつの音が気持ちいい。時にメロウ、時にうめくようで、気が付けば粘液の底へ沈み込んでいる気分だ。いわいるロックというより、SUN RAとかを連想してしまう。

 74分は長すぎだろうと最初は思ったけれど、一気に聴き通してしまった。



pizzicato five "happy end of you" (matador)
 「Happy End of the World」のリミックス12インチの音源を集めたアメリカ盤。808 STATE、DIMITRI FROM PARIS、SAINT ETIENNE、MOMUSなんかがリミキサーで参加していて、OVALやSEAN O'HAGANといった音響系にも目配りした人選はさすが小西康陽って感じ。まずは人選で満腹だ。

 ただ、音の方はリズムを強調しただけの平凡なトラックが多くて、目の冷めるようなアイデアは中盤以降まで待たなきゃいけない。SEAN O'HAGANが「baby portable rock」を自分の虚ろな世界に持ち込んでしまい、OVALも「happy ending」を原曲無視で自分の世界に取り込んでしまった。生ドラムを石原裕次郎ばりにバカスカ叩いてるのは、JOHN OSWADによる「it's a beatiful day」だけど、こういう単純なのも逆に面白い。MOMUSはやんちゃ坊主のようにリズムや回転数をいじり、DIMITRI FROMはまんまディスコ・ミックス。

 混淆玉石といった内容だけど、無政府状態の分、曲順とかはよく考えられてて感心した。



MALOUMA "DESERT OF EDEN" (SHANACHIE)
 MALOUMAはアフリカのモーリタニアの女性歌手。モーリタニアはセネガルの北にある国だ。彼女の音楽は、伝統音楽を現代化したもので、独特のコブシ回しの魅力が伝わる丁寧な作り。伸びのある声ではないけれど、サックスとの相性もよく、穏やかな広がりを感じさせる。「MAGHROUR」のように非常にポップな曲もあるし、ブラスの入った曲はちょっとスーダン歌謡を連想させる。モーリタニアの音楽は現地録音の民族音楽しか聴いたことがなかったけど、彼女のアルバムはアラブ的要素を浮き立たせる音楽性が新鮮だった。