Vol.16 (side B) APR/1998



Rocket or Chiritori "TOKYO YOUNG WINNER" (CARDINAL RECORDS)
 緑の木々が美しいジャケットにひかれてこのアルバムを手に取った人は、スピーカーから流れ出す恐ろしい低音質に度胆を抜かれるはず。僕もそのひとりだ。

 発売当時17歳の柴原聡子のソロユニットによる97年作で、ローファイという言葉の本来の意味を思い出させられる宅録音源集。歌詞は英語。1曲目「Winter Ocean」は一応曲もアレンジも出来ているけど、アイデアの破片だけで押し切ってるような曲も多くて、いろんな意味でスリリング。「Thank You」での荒っぽいサンプリングには頭クラクラだ。そんなサウンドに呆然としてると、不意に切ない「Tell Me」のメロディーが流れ出してきたりもする。雑誌「米国音楽」のレーベルからの発売だし、メロディーのセンスとかを楽しむものなんだろう…と自分を納得させたくなるけど、聴き返してるうちに、ひょっとしたら大器なんではと思わせるようなセンスがあるから油断は禁物だ。

 それにしてもすごい度胸だと、感心させられっぱなしだった。



CAPTAIN BEEFHEART "TROUT MASK REPLICA" (REPRISE)
 以前から聴こう聴こうと思っているうちに、すっかり聴いた気になっていた70年作。フランク・ザッパのプロデュースによる素晴らしくグチャグチャした世界が展開されていて、79分一気に聴き通したらドッと疲れた。

 アルバム冒頭っからリズムが次々変化していって、サウンド泥仕合へ参加する覚悟を迫られる。自律神経を泥だらけの手でいじくり回されるようであり、酩酊したかのような音世界だが、笑おうものなら殴られそうな切迫感があって、聴く姿勢は正座に決定。全ての拘束から放たれたかのような前衛っぽい曲もあるけど、それも幽玄の境地に向かう1羽の白い鳥のように美しい。唸り、叫び、黙り、のた打ち回るが、実は非常に洗練された演奏でもある。ロックもブルーズもジャズもアヴァンギャルドも食らい込み、食い合わせの悪さに痙攣したかのような音世界。業を背負って音を鳴らす者達の熱き魂に、思わず男泣きだ。

 これを聴いた後なら、普段は飲めない強い酒も飲めそうな気がしてくる。それで痙攣しても後悔はしないぜ。



SEZEN AKSU "DUGUN VE CENAZE" (RAKS MUZIK)
 ボスニア・ヘルツェゴヴィナ出身の映画音楽家ゴラン・ブレゴヴィッチの作品を、トルコ歌謡の女王が歌ったアルバム。彼女のアルバムを聴くのは2枚目だけど、この新作にはブラスが入っていて、猥雑で濃厚な味わいだ。

 ハスキーな歌声でしっとりと歌い上げる曲の数々は、アラブ色が濃い中にも東欧の匂いがして、アラブ・ヨーロッパ・アジアの文化の融合点であるトルコらしい、大陸の音楽って感じだ。アラブ色の強い音色の打楽器で、容赦ない変拍子攻撃をする「Dugun」なんてクールの極み。リズムが打ち込みの「Ayisigi」はイマイチだけど、ミュージカルのエンディング曲のように盛り上がるラストの「Kalasnikof」といい、サウンドの完成度は高いんで、アジア・アラブ歌謡がダメって人でも大丈夫だろう。



スーパーカー "スリーアウトチェンジ" (EPIC)
 ジャケットも青いが中身も負けずに青い。悪口ではなく誉め言葉だ。重量感はないけどスピード感はある。メロディーはどこかで聴いた気もするけどキャッチーだ。モコモコしたサウンドと、気恥ずかしいほど真っ直ぐな歌詞の乖離は居心地が悪いし、音楽的な引き出しとかテクニックとか、問題点はいろいろ指摘できるけど、今はそんな野暮は言いっこなし。若さを超えるものを手にすることを期待しておこう。

 とはいえ、紅一点がボーカルをとる「DRIVE」や、轟音っぽさを出そうとしたと思われるミックスの「u」、男女で交互にボーカルを取る「Hello」みたいな曲は理屈抜きの気持ちよさがある。歌詞カードにはコードも付いているし、僕も中学生とか高校生の頃なら、学校の行き帰りの自転車の上で口ずさんでそうだ。いや、僕は自転車通学じゃなかったんだけどイメージ的に。

 ラストで13分弱もうねり続ける「TRIP SKY」を聴いてると、稚拙な歌詞よりこのサウンドに込められた苛立たしさの方がリアルに感じられた。