Vol.14 FEB/1998



SABAH HABAS MUSTAPHA "JALAN KOPO" (Kartini)
 80年代末期にワールドミュージックがブームになった頃、3 Mustaphas 3というバンドが現われた。バルカン半島のシェゲリ村という地図のどこにも載っていない土地の出身だと言い張り、世界中の様々な音楽を混合をしまくってスキモノを狂喜させたバンドだ。そのメンバーだったのがサバ・ハバス・ムスタファで、3 Mustaphas 3の活動停止後もソロやプロデュース活動はしていたのだが、久々の新作、しかもインドネシアのスンダ録音ときてはマニアの血が騒ごうというものだ。

 ガムラン・スリン(笛)・クンダン(太鼓)といったインドネシアの楽器で伴奏をしているが、曲のメロディーは意外とインドネシアっぽくない。収録されているのは全て自作曲だが、インドネシア音楽をそのまま摸倣することは意識的に避けているのだろう。レゲエの曲があったり、カントリーみたいな曲もあったりで、中盤は意外とロックな印象だが、後半はアジア的湿度を増して、正調ダンドゥット(インドネシアの演歌みたいなもの)で締めくくる。

 打ち込みのサウンドが古臭いところもあるけれど、キッチュさと生真面目さの両方を持ったミクスチャー感覚は昔のまま。好景気がもたらしたワールドミュージックというブームが終わっても変わらないメタ精神に、インドネシア音楽への深い愛情を見た。



THE HIGH LLAMAS "COLD AND BOUNCY" (V2)
 リーダーのSean O'HaganがStereolab やコーネリアスのアルバムに参加しているので、 少し前から気になっていたバンド。実際に聴いたところ、噂通りのBrian Wilsonぶりで、嬉しかったり気恥ずかしかったり。しかしそれは、ポップ・ミュージックの定型に囚われないStereolabのようなバンドと関わっているからこそ出来る、確信犯的なポップ・ミュージックという感じだ。生のブラスやストリングスと、エレクトロな音が同居する独特の音響感覚はとても心地いい。夢うつつのまま揺れているような世界だ。

 この裏では相当なエネルギーが注がれていると思われるが、アルバムの空気はあくまで穏やか。これは実はとても過激なことかもしれない。



VAN DYKE PARKS "MOONLIGHTING" (Waner Bros.)
 こちらもBrian Wilsonとの関係が深いVAN DYKE PARKSの新作は、小規模なホールでのライヴ盤。代表曲を集めた選曲で、Brianとの共作アルバム「ORANGE CRATE ART」の曲も含まれている。オーケストラの洒落た演奏をバックに聴かせるのは、開拓時代から現代に至るまでの合衆国の音楽文化の深みだ。ミュージカルのように愉快な「C-H-I-C-K-E-N」なんて曲もあれば、ピアノがメインの「THE ALL GOLDEN」のような小曲もある。ちょっと線の細いボーカルは、決して表現力が豊かとはいえないが、それもまた味があるってものだ。「ORANGE CRATE ART」の曲である「WINGS OF DOVE」なんて、聴いてて胸が高鳴ってしまった。

 瑞々しくて艶やかで、年代物の高いワインのように優雅な風味。酒には弱い僕だが、これなら悪酔いの心配はなさそうだ。



ソウルシャリスト・エスケイプ "ロスト・ホームランド" (Kioon)
 ソウルフラワーユニオンの中川敬を中心とするユニットで、クラリネットの大熊亘、ドラムのSamm Bennettもメンバー。サウンドはロック+日本民謡+アイルランドという感じで、ユニオンの96年作「ELECTRO ASYL-BOP」の印象に近い。しかし、あれもこれもと詰め込まれた「ELECTRO ASYL-BOP」に比べ、音楽要素を絞りこみ、情感に満ちた「うた」が正面に据えられている。2曲目の「潮の路」からして、雄大にして豊穣な歌の世界に引き込まれてしまった。

 「さびしい」という言葉が出てくる「短距離走者の孤独」や、恋する2人の姿が浮かぶ「おやすみ」「落日エレジー」など、パーソナルな感触の歌詞は新鮮だ。孤独を歌った「短距離走者の孤独」は、シングルとは思えないほどキャッチーじゃないが、聴けば聴くほどいい曲だ。

 ジャズの匂いがする「ゴーストーリー」は、ユニオンの「宇宙フーテンスイング」の路線をさらに中川流に消化。これで3ヴァージョン目となる「満月の夕」は、Donai Lunnyをはじめとするアイルランド勢のストリングスがなんとも麗しい。

 以前中川は「すべての音楽は民謡であるべきだ」というような趣旨の発言をインタビューでしていたが、このアルバムでの見事なルーツ表現を聴くと、その理想を見事に体現する力量に改めて感心させられる。駄菓子屋をはじめとするキッチュな日本情緒に満ちたアート・ワークも素晴らしい。

 一方では、Samm Bennett作詞作曲の英語曲「ゴーン(ホーム)」があったり、ビクトル・ハラの重い雰囲気のインスト曲「ラ・パルティーダ」があったりもする。一聴すると不思議な展開だが、それぞれの個が抱える孤独を歌う「短距離走者の孤独」へ続くことを考えると、個の精神と、その足元に潜む世界の歴史との関係を歌うのがこのアルバムのテーマなのかもしれない。



THE FRANK & WALTERS "grand parade" (SETANTA)
 去年から輸入盤を探していたアルバム。よく知りもしないこのバンドのアルバムを探していたのは、ジャケットが非常に印象的だから。雪が吹き付ける中、何かの制服を着た人たちが公園のような道を歩いている写真で、なぜか沢山の風船を持った人もいる。いろいろと想像の膨らむジャケットだ。

 そしてやっと入手できたそのCDを聴いたのだが…なんだよこの80年代的なサウンドは。ギターもドラムもキーボードも、総じて音が古い。重心の安定した演奏で、いいメロディーも多いのだが、あまりにもストレート過ぎて面白みにかけるのも事実。ジャケットからしてもっと地味で味わい深いものを想像していただけに、中身と合ってないアートワークというのもなかなか罪作りなものだと思わせられた。



"SMiLiNG PETS" (SONY)
 The Beach Boysの「PET SOUNDS」「SMILE」という2枚のアルバムの曲を、日米英豪のオルタナ系のアーティストたちがカヴァーした企画盤。Brian Wilson が生み出した傑作として「PET SOUNDS」は僕らの世代に特に評価が高いし、「SMILE」は発売されなかった幻のアルバムとして伝説化しているけれど、年期の入ったファンにはしかめ面をされそうな企画だ。

 そして中身の方だが…残念ながら惨敗ムードが濃厚。天才が相手では仕方の無いことだが、カヴァーというよりコピーといった方がいい演奏で終わってるアーティストが多いのは勘弁して欲しい。そんな中では、日本のMelt-Bananaは相変わらずの妙な構築感覚を展開していて面白い。SPORTS GUITARは、「Wonderful」をコチコチとした無表情な演奏で聴かせる。また、低音ノイズの洪水をバックに「Here Today」を歌うSonic YouthのThurston Mooreは、はやり別格という感じ。やはり原曲と同じ料理法ではかなうはずもなく、全く違う解釈で曲と対峙したほうが圧倒的に面白いのだ。

 個々の演奏はそれなりに楽しめる面もあるし、なにより曲がいいので悪いアルバムではないと思うが、これなら人には西新宿で「SMILE」の海賊盤を探す方を勧めてしまうだろう。現在東芝EMIから出てる再発盤も安くてお買い得。