Vol.13 (side B) JAN/1998



GOLDIE "SATURN RETURN" (ffrr)
 レコード屋の試聴機には、この2枚組アルバムのうち2枚目の方が入っていた。それはそうだろう、1枚目は始まって5分以上も、耳鳴りとも排気音ともつかない音が鳴り続けて、やがてオペラもどきの歌声で「お母さーん」とか歌い出すんだから。1曲目「mother」は実に1時間。混沌としたサウンドとともに、自己のアイデンティティーを惜し気もなく表現したこのトラックは、ヒーリング・ミュージック最先端といえなくもない。世界中で自分一人のためだけのヒーリング・ミュージックかもしれないが、それもまた美しい。

 対して2枚目はアグレッシヴに展開し、歪んだギターが叫ぶように鳴って、パンク魂を見せ付ける。音質が高音のみシャカシャカ鳴るアイデアも面白い。ゴールディー自身のヴォーカルはやや平坦な印象で、その分KRS ONEのラップに安心してしまうのは困ったもんだ。

 その一方で、ソウルっぽい4曲目「believe」での管楽器の使い方は巧いし、リズム系のない7曲目「letter or fate」にも驚かされた。昨年事故死したブラジルのラッパー・シコ=サイエンスに捧げた曲もあって、視野の広さを感じさせる。しかも、サウンドをこれだけ重層的に構築していながらもクール。ドラムンベースという枠を超えた先鋭的な音楽家のアルバムとして楽しんだ。



小坂忠 "ほうろう" (ALFA)
 オリジナル盤の発売は75年で、細野晴臣・鈴木茂・林立夫・松任谷正隆によるティンパン・アレイがバックを務めている作品。細野プロデュースの名盤との評価は以前から知っていたが、1曲目「ほうろう」のグルーヴ感全開ぶりからしてシビれてしまった。フォーク臭さなんて全く無くて、もろにR&Bの影響を受けたサウンドだ。コーラスを務めるのも、山下達郎・大貫妙子・吉田美奈子という鼻血が出そうなメンツだ。

 はっぴいえんどのカバー曲もあって、オリジナルとの違いも楽しめる。「ふうらい坊」「氷雨月のスケッチ」なんて曲も、すっかり真っ黒。意識的に布団の湿気を含んだかのようなはっぴいえんどのサウンドに比べると、強い陽射しで乾かした後のようだ。ファンクな「ゆうがたラブ」も、サウンドのうねり具合がカッコいい。

 鈴木晶子こと現在の矢野顕子が作詞した「つるべ糸」も収録。東京スカパラダイスオーケストラ&小沢健二がカバーした「しらけちまうぜ」は、小坂のソウルフルなヴォーカルが冴える、キャッチーな佳曲だ。



カジヒデキ "tea" (TRATTORIA)
 白人ギャルを4人も起用してカジ君と共演させたアートワークはダサさ寸前だが、あえて間抜なマネをして、同時にセンスを見せるのはなかなかの高等技術だ。

 今回もトーレ・ヨハンセンのプロデュースで、相変わらずポップないい曲ばっか。でも、前作が鬱を脱した後の躁状態を感じさせたのに比べると、やや落ち着いて安定期に入った印象。前作でも感じたんだが、2曲目みたいな比較的ワイルドなサウンドの荒っぽさ具合が彼の場合は心地よかったりするのは不思議な魅力だ。生楽器を混ぜながらも妙に薄く感じるサウンドは、ヨーレの持ち味だろう。

 世間の女の子達にとって、この間まで小沢健二がいたポジションは、いつのまにか彼が取って替わってしまったようだ。



Buffalo Daughter "New Rock" (Grand Royal)
 余分なものをさらに削ぎ落とし、チープなところはチープ、ワイルドに迫るところはワイルドと、一層針の振れ方が大きくなってなかなか痛快。こんな音使うのには勇気いるよなぁ、なんて思わせられるレトロな音も平気で使っちゃう豪胆ぶりだ。それでいて、前作よりも一層肉体的なのが面白い。しかも既成のポップスの枠組みから大きく飛び出しているのに、妙に人懐っこかったりもする。オルタナもモンドもエレクトロも通過した先のこの音が「New Rock」ってわけか。

 前身バンドであるハバナエキゾチカの頃から彼らを聴いているのだが、小西康陽プロデュースの「火星ちゃんこんにちは」からスタートした電子音路線は、ハバナのファースト「踊ってばかりの星」をプロデュースしたヤン富田の音世界に近づいてきたようだ。時代の必然なのだろうか?

 ボーナスCD収録の「Daisy」は、アルバム本体とはうって変わった、シンプルで芯の太いサウンドが心地いい。