Vol.12 (side B) DEC/1997



CAETANO VELOSO "LIVRO" (Polygram)
 まず驚かされたのが5曲目「DOIDECA」だ。細かいリズムを刻むドラムン・ベース状態のパーカッションと、不安定な音程のピッコロの間をぬってカエターノが歌う、そのカッコよさといったらない。不協和音を巧みにコントロールしながら、なんとも不可思議なトラックを生み出している。50過ぎにして、時代に媚びることもなくこんな前衛的なマネをしてしまう彼には改めて感服してしまった。

 もちろんどの曲にも持ち前の美しいメロディーが溢れていて、多くの曲でサンバのリズムも響いている。タイトル曲である2曲目は、憂いを含んだ厚いストリングスとギターの激しいノイズが混沌を生み出していて、このアルバムを象徴しているかのようだ。マリンバの音色がキュートな7曲目も印象的だ。とにかく、ほんの1曲の間にもスリリングな展開がそこかしこに仕掛けられていて、しかもアルバム全体としての統一感もあるのだから文句の付けようがない。

 僕がワールドミュージックを聴き始めたのは、デヴィッド・バーン編集の「beleza tropical」というブラジル音楽のオムニバス盤がきっかけだった。そして、その中で最も気に入ったのがカエターノの曲。あれから10年近い年月が経ってしまったが、それでも全く衰えを見せないこの男、もはや不思議に思えてくるほどだ。



ar rahman "vande mataram" (COLUMBIA)
 今月の期待裏切り大賞決定、おめでとう!って感じの1枚。 インド映画音楽の大家がコロンビアと契約して発売したワールド・デビュー盤。インド映画音楽を収録した旧作は、日本でもオルターポップから発売されている。

 インドの映画音楽といったら、俗悪なまでの雑食性が魅力。ところがこのCDから流れてきたのは、ニューエイジ・ミュージックのような端正なサウンドだ。まるで中国のアンビエント・ユニット、ダダワのようだ。

 たしかにスケールは大きいのだが、それと比例するかのように薄口になってしまっているのは困ったものだし、打ち込みも気合は入っているのだろうが、音色感覚のダサさが目立つ。

 ただ、今は亡きパキスタン神秘主義音楽の天才ヌスラット・アリ・ファテ・ハーンが参加している3曲目は、ポップでよく出来た曲だ。インド風味にも無理がなくて、一番自然に楽しめる。

 かつて在英のインド系移民の音楽・バングラビートが全盛だった頃、そのムーブメントの寵児だったバリー・サグーはコロンビアからアルバムを出したものの、それ以降は見事に失速してしまった。その彼の二の舞になんなきゃいいんだけど。



KILA "Mind the Gap" (MSI)
 ジャケットからしてアシッドなこの連中は、アイルランドの男女混合7人組バンド。アイリッシュにとどまらず、アフリカやカリブ、ジプシーの音楽までを吸収したサウンドが好事家の間で話題になっていた。

 実際に聴いてみてもその通りなのだが、予想以上にアイルランド音楽の基礎体力もあるようだ。その辺の実力は、静かな曲に漂う緊張感にはっきりと浮き彫りにされている。様々な音楽的要素の導入も、その実力があってこそできるリズム面での実験という感じなのだ。

 ロック的な要素にやや古さはあるが、エレキギターが正面切って鳴る曲の次に、違和感無くフィドルとパイプだけの並んでいるのも彼らの個性だろう。打ち込みに走ることはないが、それでもプログレッシヴ。伝統と先鋭性のバランスが絶妙で、フィドル好きの僕もかなり満足できた。



中村一義 "主題歌" (Mercury)
 草をはむ鹿に波動を送る抜けっぷりが素敵。そんな中村一義のマキシシングルは、アルバム「金字塔」の最初と最後に入っていた短いトラックの歌詞付き完全版。わざわざ後から別売りにすることによって、時間軸に沿ったドラマをリスナーとの間に演出したのかもしれない。そうだとしたらとんでもない確信犯だ。

 「主題歌」の歌詞を聴いて、そんなに前向きでこの先も続くのか?と心配になってしまうのは僕の老婆心のせいだろう。しかし、そんな風に斜に構えてしまう僕のような人間の耳さえ奪ってしまう、不思議なほどの説得力がある。前向きさの中にちらつく挫けそうな気分までそのまま歌われると、弱いんだよなぁ。

 メロディーはキャッチーのど真ん中を微妙にはずしているが、非常に練られたもの。これは明らかに歌詞を伝えるための曲で、「金字塔」の収録曲の多くの歌詞が全く聴き取れなかったのは好対照だ。

 そしてカップリングの「金字塔」は、歌詞がぐっと抽象的。「主題歌」の分かりやすい歌詞の後で、こうして聴き手を煙に巻いてしまうところが、また彼らしい。