Vol.12 (side A) DEC/1997



佐野元春 and The Hobo King Band "THE BARN" (EPIC)
 一聴して、ストレートなロック・サウンドばかりであることに驚いてしまった。サウンドのバラエティーやコンテンポラリーな音作りを意識していた前作「FRUITS」とは、大きく方向性が変わっている。ジョン・サイモンをプロデューサー迎えての海外録音作は、予想以上にリラックスした空気だった。ドラムスやオルガンをはじめとして、音の感触が前作よりもぐっと丸くなった印象。シリアスな曲よりも、「7日じゃたりない」や「風の手のひらの上」みたいなゆったりした曲の方が、ナッシュヴィル匂いがして好き。

 1人でサウンド作りに悪戦苦闘していた「VISITORS」や「CAFE BOHEMIA」の頃に比べると、嘘みたいに力が抜けている。木目調のサウンドといってもいいかも。



"ethiopiques - golden years of modern Ethiopian music 1969-1975" (Buda Musique)
 1970年前後のエチオピア歌謡を集めた編集盤。発売はフランスのレーベルから。

 エチオピアの音楽といったら、在米エチオピア人歌手のアスター・アウェケぐらいしか聴いたことがなかったのだが、このアルバムに収められた音源の数々は、それよりも遥かに泥臭い。もろにアラビックな歌メロに、ジャズ色の強い演奏がかぶさって、強烈にファンクだ。この異化効果はただごとじゃない。古い録音ゆえのくぐもった音質も逆にマッチしている。アレンジの多彩さにも驚かされた。

 土着の音楽が欧米の音楽と出会って間もない時代の熱が刻まれたかのようなエキサイティングなアルバムで、このインパクトにはすっかりやられてしまった。



嶺川貴子 "CLOUDY CLOUD CALCULATOR" (POLYSTAR)
 ここ最近はBuffalo DaughterやADSとのコラボレーションが続いていたけれど、セルフ・プロデュースのこのアルバムでもミネカワらしさは不変。相変わらずキッチュでクールだ。

 このアルバムで何よりも刺激的なのは、通常の「音楽」という枠組みを越えて、もっとダイレクトに聴覚へ迫ってくる立体感だ。なにか現代美術の構築物のような印象すらうける。華奢なルックスとは裏腹に、太いビートをかます度胸も素敵だ。ボアダムス/想い出波止場/羅針盤の山本精一が参加しているのも納得してしまった。

 全篇エレクトロな展開の中で、突如ヴァイオリンにのってミネカワの日本語の歌が始まる8曲目も心憎い。最後を締めくくるのが、米国の気違いモンド音楽家・Joe Meekのカバーというのも気が利いている。

 SFを連想させるような未来テイストの音楽だが、アナログ感に満ちているのも魅力。これだけ先鋭的なサウンドなのに、実はかなり耳に優しい。これは人柄ゆえなのだろうか。



phish "slip stitch and pass" (Elektra)
 アメリカって今景気がいいんだよなぁ。聴いていてふとそんなことを思ってしまったライヴ・アルバム。これまではジャケットが妙なグレイトフル=デッド・フォロワーという程度の認識だったのだが、このアルバムはとうとう買ってしまった。ジャケットが妙すぎるんだもん。

 徹頭徹尾、迷うことなきアメリカン・ロック・バンドぶりで、延々と続くインプロビゼーションも、いい湯加減の風呂に浸かってるような気分の良さだ。長尺の曲が多いから、長湯気分も味わえる。これを野外コンサートで聴いたらさぞや気持ちいいだろう。

 いまさら音楽的にどーのということもないのだが、この理屈抜きで楽しめる開放性についつい聴き返してしまった。なんか悔しい。



"あさばな - 奄美しまうた紀行" (JABARA)
 奄美の島唄を現地録音したアルバム。

 興味深いのは、同じように三弦(三線)を使っていても、沖縄本島とは違った味わいがあること。いわゆる琉球音階ではない曲も多い。より喉を狭めて音を伸ばす清正芳計や安田宝英のコブシ回しには中央アジアの民謡を連想してしまうし、阿世知幸雄の琴の音は中国の揚琴に似ている。

 中学生や高校生の女の子達のまだこなれてないコブシも、逆に奄美独特のコブシを浮き上がらせているようで面白かった。