Vol.11 (side B) NOV/1997



青山陽一 "Ah" (METROTRON)
 97年は「WARAJI LIVE」「メトロトロン・ワークス」と立て続けに彼のライヴを観た。特に後者での演奏は素晴らしく、呪術的なグルーヴすら感じさせるものだった。

 待望の新作は、スタジオ録音だけにそうしたテンションは記録されてはいないが、極端なほどアナログな質感が心地いい。気だるさを孕んだ粘着質なサウンドには、ある種の情念が充満していて、むせてしまいそうだ。しかも寓話のような不可思議なイメージに溢れた歌詞を聴いていると、すべて輪郭が不明瞭になっていくる気がする。しかもエッチくさいのだから困ったもんだ。

 煙草の煙に満ちた部屋の中で鳴らされるかのようなミックスは、カーネーションの鳥羽修によるもの。たしかにケムいが、癖になりそうな中毒性のあるアルバムだ。



広末涼子 "ARIGATO!" (WARNER)
 中身の音楽以前にジャケットやスリーヴの写真がいいので、この時点でもうOK。

 作家陣は、シングルを書いた竹内まりや・原由子・岡本真夜に加えて、高波敬太郎と奥井香。この手のCDは音楽性をどーのというものでもないだろうが、藤井丈司のプロデュースは可も無く不可も無いという印象だ。唯一藤井の編曲ではない高浪の曲「ヨリミチ」が結構耳に残ったり、奥井のベタなメロディーと藤井のダサダサなサウンドが融合する「It's my Idol」がキツかったりするのはご愛敬だろう。シングルではなんと山下達郎のコーラスが入っていた「とまどい」が別ヴァージョンなのはなぜ?

 ともあれ、広末の歌声を立て続けに聴ける贅沢がやっと実現したわけだ。念願かなって嬉しいはずなのだが、やはり僕がもっと燃えていた1年、いやせめて半年前に出ていて欲しかった…という淋しさも心にチラリ。



APHEX TWIN "Come To Daddy." (warp)
 タイトル曲のミックス違い3種と、他5曲を収めたミニアルバム。ジャケットも例によって狂っているので、ぜひ店頭で確認して苦笑していただきたい。

 「Come To Daddy.」3種は、叫びまくったり、組木細工のようだったり、同じ曲とは思えない奇天烈ぶり。他の曲も鼓膜に優しくない音の連発だが、一方で急にアンビエントになったりで、耳で聴く分裂気質という感じ。個人的には2曲目「Film」のリズム処理が好きだ。

 それにしても、もはや「テクノ」という言葉で括れるものではない感じだ。強いて言うなら、「Richard D James」という種別でしか括れない。あるいは、入室者名にその名が書かれた病室送りだ。



BRIGITTE FONTAINE "comme a la radio" (SARAVAH)
 フランスのサラヴァ・レーベルの名盤として、「ラジオのように」の邦題でも有名なアルバム。

 フランス語の独特の響きは、往々にしてフレンチ・ポップなりシャンソンなりという足枷を歌に与えることになるけれど、このアルバムの強烈なサウンドと歌の共振はそれを許さない。かつてフリージャズのオムニバス盤でART ENSEMBLE OF CHICAGOの演奏を聴いた際のショックのため、このアルバムを聴いたのもむしろバックを務める彼らへの興味が中心だったのだが、ブリジットの歌は彼らのサウンドと溶け合って、特異な空気を生み出している。フリージャズ集団として有名なART ENSEMBLE OF CHICAGOが鳴らす、不安定で妖しく複雑な調性やリズムは、時に土俗的ですらあり、精気の無い彼女の歌声は演奏と相まって、深い虚無感を描き出すかのようだ。

 洞穴の中で1本の蝋燭の灯りだけで歌っているようでもあり、真夏の太陽が照りつけて周囲の景色が何も見えない中で歌っているようでもある。もう恐いくらい。



The Beach Boys "The Pet Sounds Sessions" (CAPITOL)
 BRIAN WILLSONが生み出した傑作「Pet Sounds」のミックス違いやセッションの模様、ヴォーカル・オンリーや別ヴァージョンなどを収めた4枚組BOXセット。これまで何度となく発売が予告されては延期されてきたが、遂に発売された。馬鹿高い海賊盤を買わなくてよかった。実をいうと、僕はBOXセットというものを買ったことがなかったのだが、やはりこのアルバムに関しては別格。輸入盤は11月前半に入荷していたのだが、このセットばかりは日本語訳付きの日本盤を買うことにした。

 オーディオの微妙な音質の違いを聞き分けるほど耳に自信がないのだが、DISC1のステレオ・ミックスはさすがに音が違っていて驚いた。こんな音質の違いに気づけるぐらいには、僕は「Pet Sounds」を聞き込んでいたようだ。また、通常の和音感覚とは異なる音が次々と響くセッションズ・パートも興味深い。天才が音を操る現場の記録だ。この辺は資料片手に後々じっくりと楽しみたい。

 そして感動したのが、DISC3のヴォーカル・オンリーのヴァージョン集だ。要は、バックを抜いたアカペラなのだが、まさに魔法のようなコーラス・ワークだ。そんなことはとっくに気づいていたはずなのだが、こうして聴くと改めて驚愕してしまった。本当に神秘的で、狂気の匂いがするほど美しい。ブライアンがトリップの中で耳にしたのはこんな音だったのだろうか?

 DISC4は、昨年リマスターされたモノ・ミックス。ああ、この美しい音楽を聴ける時間が日々の中にもっとあればいいのに。