Vol.10 (side B) OCT/1997



サニーデイ・サービス "サニーデイ・サービス" (MIDI)
 96年作「東京」は、僕にとってその年最も多く聴いたアルバムの1枚だった。むせかえるほどの濃密な情を込めた歌の数々に胸をかきむしられながら、しかし同時に、なぜここまで新しさのかけらも無いのだろうという疑問も抱いた。あまり好きになれなかった前作「愛と笑いの夜」も同様の印象だった。かつては「ポスト・フリッパーズ」のバンドとして渋谷HMVのインディーズ・チャートにも入っていた彼らは、なぜこれほどまでに方向性を変えたのだろうか? 尋常ではない音楽マニアの曽我部恵一は、なぜ音楽的な新しさに背を向けるのだろうか?

 バンド名を冠したこの新作を繰り返す聴くうち、そんな疑問がやっと解けていった。曽我部は、歌に情を込めることに全力を注いでいたのだ。サウンドの新しさよりも普遍的な歌をひたすらに求めていることに、いまさらながら気がつかされた。言い換えれば、愚鈍な僕にもそう気づかせるだけの説得力がこのアルバムには満ちているのだ。

 このアルバムの所々で、僕は「美しい」と感じた。こんな小汚い格好の連中の音楽にそう感じるとは我ながら意外だけれど、確かに美しさが立ち現われる。そして消えていく。声高に叫ぶことも無く、抑制されたトーンの表現の中に、胸の隙間に飛び込んでくる言葉がいくつもある。

 個人的には、アルバム中盤から後半にかけての静かな曲が並ぶ流れが好きだ。くわえて「そして風が吹く」でギターの音色がその流れを壊す瞬間も。狂おしいほど暴れる間奏のギターもいい。

 音楽的な方向性は違っていても、普遍性のある音楽を追究する求道者的な姿勢には山下達郎を連想した。古い詩集を繰り返し読むように、今このアルバムを聴いている。



森高千里 "ミラクル ライト" (WARNER)
 なんと細野晴臣の作曲&プロデュース、しかも森高のドラムの他は、すべて細野が演奏しているという恐ろしいシングルが登場してしまった。彼のオリジナル・アルバムはすべて聴いている僕としては高鳴る鼓動を感じつつ聞いてみのだが、その感想は…「全然売れ線じゃないっ!」(笑)。いや、曲が悪いはずもなく、カントリー風味などの小技の入れ方もさすがだ。ここのところアンビエント仙人と化していた彼も、しっかりポップな俗世間に戻ってきてくれてようだ。

 しかもカップリングの「ミラクルウーマン」は、「ミラクルライト」のダブ・ヴァージョン。もう無法状態で、細野御大のベースも満喫。実はこの細野ベース&森高ドラムのリズム隊、今年になってからテイトウワやチャラのレコーディングでも大活躍なんだから、世の中どう転ぶかわからないという見本のようなものだ。

 とにかく、ここ数年の細野の仙人ぶりが嘘のよう。齢50を越えてもこんなサウンドを作ってしまうのはさすがで、新作への期待も高まろうというものだ。

 でも、残念ながらこのシングルはあまり売れなかったようで…。最近森高が連発しているシングル群の中に埋もれちゃいましたね。



中村一義 "金字塔" (Mercury)
 エヴァをサンプリングしている曲があるというので、遅ればせながら聴いてみたのだが、それを置いても予想外に良かった。デビュー当時天才の呼び声も高かったので気にはなっていたんだが、ここまでポップスの黄金律を繰り出しまくりとは。もう目眩がしそうだ。

 宅録っぽいトラックもあるけれど、高野寛や朝本浩文、そして鈴木茂(!)まで演奏に参加したサウンドは躍動感が溢れている。声も張りがあっていい。日本語を独特の感覚ではめ込んだ歌詞や、流れを持ったアルバム構成など、耳を引くポイントがとにかく多い。

 しかもこの中村一義、今年で22歳。うひぁ。過去の音楽の遺産をこれほど血肉化していることは驚愕に値する。また、若者らしい普遍的な感覚をはらんだ詩も、感傷に流されずに何かをまっすぐ見据えているかのような印象だ。素晴らしい。この迷いなき姿勢と音楽的水準を維持できるなら、彼は本当に「天才」になれるかもしれない。そんな希望すら感じさせるデビュー・アルバムだ。



宮村優子 "不意打ち" (Victor)
 僕にとって、おたく文化圏のなかでも声優というジャンルは霧の向こうの世界で、音楽をかなり聴いてきたつもりでも、声優のアルバムってのは未知の世界だった。そして初めて本格的に聴いた声優のアルバムがこれ。鈴木慶一・濱田理恵・高波敬太郎が曲を書いたりアレンジしたりしていて、しかも駒沢裕城や関島岳郎などマニア泣かせなミュージシャンの起用が起用されているという、メトロトロンレコードのマニアは必聴のアルバムなんである。

 中身の方は、まるっきりアイドル・ポップスな1曲目から始まって、奇天烈テイストの曲、英語曲、ハワイアンなど、声優のアルバムっていう特殊性を逆手に取った無軌道ぶり。なんと、原田知世や大貫妙子もカバーした名曲「彼と彼女のソネット」まで収録している。そして鈴木慶一による「Un Nicodeme 2 〜 まぬけなおじさん」は、ふわふわした自我探究系脱力ポップスで、他人のアルバムにもこんな曲書くのかい!?ってな感じのアクの強い曲だ。濱田理恵がアレンジした「KANON」も美しくて、濱田理恵の甘いコーラスに卒倒寸前。爽やかに始まって、中盤は混沌に向かい、そして後半は穏やかになり、明るくラストを迎えるという展開もいい。音がしょぼい箇所もあったけど、音楽的クオリティーも高いし、予想外に楽しめた。