Vol.10 (side A) OCT/1997



喜納昌吉&チャンプルーズ "すべての武器を楽器に" (COLUMBIA)
 移籍王・ムーンライダーズを追撃する喜納昌吉の新作はコロンビアからの発売で、これがたぶん6社目。 迎えられているプロデューサーは、OTO、S−KEN、白井良明。ワールド・ミュージックに造詣の深いOTOは納得だが、後の2人はかなり意外だ。OTOは打ち込み中心で、リミックス感覚でサウンドを構築。S−KENはリズムやステーィル・ギターなどで工夫してはいるが、全体としては控えめ。白井良明はギターを真ん中に据えたスケールの大きいサウンド、という各人の個性が出た結果となった。

 当のチャンプルーズは、そんなことは関係無いかのようにテンションが高い。打ち込みのバックになぜここまでハイになれる!?と言いたくなるほどだ。チャンプルーズの最近作は再録が多くて食傷気味だったのだが、このアルバムは再録が多くても風通しが良くて、いい意味の軽さがある。

 また、バンド自身によるアレンジの曲も出来がいいし、チャンプルーズは何度目かの音楽的ピークを迎えているのだろう。この調子で全曲新曲のアルバムを聴かせて欲しい。

 中国音楽と溶け合ったラストの「アジアの花」は、そんな期待を膨らましてくれる佳曲だ。



robert wyatt "shleep" (HANNIBAL)
 ロバート・ワイアットは、プログレグループ「ソフト・マシーン」の元メンバー。事故にあって以来、下半身不随のまま音楽活動を続けている。僕は彼の旧作「THE END OF AN EAR」を探したものの見つけられず、諦めかけた頃、幸運にもこの6年ぶりの新作に出会うことが出来た。

 元プログレ、しかしジャズの要素も多いミュージシャン…というぐらいの予備知識しか無い状態で聴いたのだが、なんとも不思議なサウンドだ。2曲目「The Ducbess」をはじめ、フリー・ジャズ的要素が強いのは意外だった。6曲目「September the Ninth」も、弛緩する寸前のところで巧みにコントロールされている管楽器の音色が心地いい。どの曲も、穏やかさと緊張感、そして不安定さが絶妙にブレンドされていて、耳が離せない。一日のうちに次々と表情を変えていく海のように展開するアルバムの構成に引き込まれてしまう。あるいは揺らぎ続ける波のようだ。

 そして僕が認識できないほどの豊穣な音楽要素がこの根底にあることも予感させる。このアルバムでもしばしば聴かれるプログレっぽい展開も、彼にとっては形式にとらわれない表現をするための一手段なのだろう。

 ワイアット流のトーキング・ブルースともいうべき10曲目「Blues in Bob minor」のためだけでも、このアルバムを聴く価値はある。この曲で、苛立たしげに鳴るギターを弾いているのはポール・ウェラー。数曲でブライアン・イーノも参加している。



TURN ON (DUOPHONIC SUPER)
 TURN ONは、STEREOLABのメンバーによる別ユニット。このアルバムは、STEREOLABの「DOTS AND LOOPS」と同時期の発売で、シングルなどを含めるとなかなかの量産ぶりだ。

 STEREOLABに比べ、使われる音のひとつひとつが大粒な印象で、全体の感触も能天気な感じ。唐突に現われるインド風味も、狙い通りにインチキ臭い。しかし、白昼夢を音響化したような曲展開の妙や、サウンドの小技は相変わらずだ。冒頭へループする幕の閉じ方にも技を感じる。

 音定位も凝っているので、ヘッドフォンで聴くのがおすすめ。コーネリアスの「FANTASMA」のオマケのヘッドフォンでも可。

 収録時間はほんの30分弱。なのに意外なほど満足感が残るのは、全体を通しての構築感の高さゆえだろう。

 それにしても、こんな音ばかりが鳴っている彼らの頭の中ってのは、一体どうなってるんだ?



LENINE "O DIA QUE FAREMOS CONTATO" (BMG)
 インターネットの回線接続音から始まるこのアルバムは、アートワークも含めて、あからさまな近未来志向の嵐。「未知との遭遇」というベタな邦題も納得で、「未来世紀ブラジル」とか付けられなかったのも幸運だった。

 レニーニは、ブラジルのポピュラー音楽・MPBの先鋭ユニット、レニーニ&スザーノの片割れ。髭をたくわえた、すでに40近いオヤジだ。

 全篇にサンバのリズムが流れるルーツ志向のアルバムだが、同時に、ノイズや金属的な音に満ちたサウンドは非常にソリッドだ。武骨なルックスとは裏腹に、彼の感覚は驚くほど若い。

 途中で挿入されるワルツやアカペラもいいアクセントになっている。アコースティック楽器と打ち込みの絡め方の上手さ、メロディーの美しさも特筆しておきたい。

 ちなみに現在レートでは、ブラジル現地盤よりも日本盤の方がお買い得。



ソウル・フラワー・モノノケ・サミット "レヴェラーズ・チンドン" (RESPECT)
 去年出たソウル・フラワー・ユニオンの「ELECTRO ASYL-BOP」は、沖縄やアイヌまで含めた日本の伝統音楽を無理なく消化した傑作だった。なにしろ、上々颱風が10年掛かっても成し遂げられなかったミクスチャーを成し遂げてしまったのだから。彼らの音楽はリアルタイムな「ロック」であり、そしてリアルタイムな「民謡」だった。

 その彼らの別動隊であるチンドンユニットの新作が出た。阪神大震災に際して活動を始めたユニットだが、一過性の活動に終わらせないのはさすが。前作「アジール・チンドン」と同様にライヴ録音。

 そこはかとないユーモア、ひなびた哀愁など、演奏の味わいも深まった。大熊亘のクラリネットが特にいい。「インターナショナル」「アリラン」「安里屋ユンタ」「蒲田行進曲」などの有名曲も、力強くも優しい彼らの音楽になっている。レパートリーは雑多だが、乱調ゆえの楽しさに満ちている。

 自由主義史観研究会を嘲笑する「むらさき節」も痛快だ。しかし彼らは、杓子定規に反政府を唱える愚鈍な左翼でなければ、日本人アイデンティティーを隠れ蓑にして国家主義を企む右翼でもない。乱調も矛盾も、すべての混沌を受け入れる覚悟を決め、それを音楽に注ぎ込んでいる。これほど「ロック」な音楽なんてそうそうない。チンドンへの先入観なんてさっさと捨てて聴いたほうがいい。こんなにカッコいいんだから。