Vol.6 JUN/1997



SPEED "Starting Over" (TOY'S FACTORY)
 勢いのあるグループってのは無敵なもんで、僕にすら視界に入った中古盤を買わせてしまった。

 プロデューサーの伊秩弘将が編曲もしているのだろうと思っていたが、それは別人によるもの。踊る4人の姿なしで音楽だけ聴いていると、音が妙に80年代ぽいっとか、ラップへの日本語の乗せ方が下手だとか、さすが不満も出てくる。まぁ、現在のソウルのサウンドの水準って、本場でもこんなものかもしれないんだけど。いかんせんソウルは聴かないんでわかんないな。

 それにしても8曲目「REMEMBER」はなぜシングルにならない。相変わらず背伸びした大人っぽさが漂うが、すごくいい曲だ。

 あと、踊ってる2人にも歌わせてやれよ。名前わかんないんだけどさ。



plug "drum'n'bass for papa" (blue planet)
 奇妙なジャケットとは裏腹に、このアルバムは徹頭徹尾クール。luke vibertが仕掛けるドラムン・ベースなのだが、踊り方を聞きたくなるほど作り込まれたシロモノで、ダンスという本来の目的を忘れてパラノイアに走ったかのような作品だ。不可思議なサンプリングのセンスも冴えてて、展開されるサウンドは、形態不定の夜行性生物のよう。曲展開の複雑さも手伝って、思わず何回も聴き返してしまのだが、それでもすべてを受け取ることができない。ドラムン・ベースからも、これほどの情報量を持ったアルバムが出てきたのだ。なんて言うと、ドラムン・ベースへの偏見?



pizzicato five "HAPPY END OF THE WORLD" (*********)
 上のレーベル名は、伏せ字にしているのではない。これで「readymade」と読ませるらしい。こんな混乱を招くマネをあえてするあたりは、さすがピチカートだ。

 昨年出た2枚同時発売盤は、コンセプト先行のような気がして、正直なところ好きになれなかった。が、この新作は一転して音楽の喜びに溢れている。なにしろ冒頭の「世界は1分間に45回転で廻っている」からして、これまでのピチカートにはなかった心情告白的な楽曲だ。小西康陽が野宮真貴に曲を書いたというより、野宮が小西の曲を歌っているという趣なのだ。

 いつになくハッピーな曲が多く、ドラムン・ベースも躊躇なく導入。いい意味での「軽さ」に貫かれている。もちろん、もろ昭和歌謡な「モナムール東京」や、夏木マリが朗読する「PORNO 3003」のような変化球も忘れていない。後者にいたっては、ほとんど小西のソロ作品のようだ。

 とにかく小西の自由奔放ぶりが印象的。しかも風通しがすごく良くて、肩ひじ張らずに楽しめる。特殊パッケージに負けていない内容だ。

 やっぱりピチカートは、情報の海原を軽々とサーフしてこそカッコいいのだ。



"トッドは真実のスーパースター" (PONY CANYON)
 サエキけんぞうプロデュースによる、トッド・ラングレンのトリビュート・アルバム。有名無名とり混ぜて30組収録は、さすがに壮観だ。

 各カバーのレベルも思いのほか高いし、各曲3分ぐらいで次から次へと繰り返されるので、ダレずに楽しめる。トッドの名を汚してないのも嬉しいね。

 鈴木慶一・ZABADAK・渚十吾・AJAなどの、各自の個性丸出し再構築がやはり面白い。また、日本語詞でまるでオリジナルのようなカーネーション、音楽バカ一代のyes,mama ok?、久々にシーンに姿を見せたWONDER3 & 鈴木さえ子、ドラムン・ベースに手を出した高野寛なども印象深かった。



Ron Sexsmith "other songs" (INTERSCOPE)
 1曲目のイントロの、ギターとドラムの音を聴いただけで降参。ミッチェル・フレーム&チャド・ブレイクが、いきなり温かさに満ちた音を響かせてくる。3曲目「AVERAGE JOE」や8曲目「CLOWN IN BROAD DAYLIGHT」のオルガンも、たまらなく美しい。

 彼のすごいところは、ひたすらに素晴らしい「うた」を、何の気負いも無く歌ってしまうところだ。そして、ミッチェル&チャドによるアナログ感重視のサウンドがその歌を包みこむ。

 妻子に囲まれながら歌を作っている彼の姿を想像しただけで、少し暖かい気分になる。



矢野顕子 "OUI OUI" (epic)
 矢野顕子のアルバムはどれも一定の水準をクリアしているので、アルバムについて評価するなら、結局趣味の問題になってくる。で、このアルバムは、最近作としては結構お気に入り。

 1曲目「Kyoto」はベンチャーズのカバー、2曲目「Jin Jin」が沖縄民謡、そして3曲目「クリームシチュー」は糸井重里作詞・槙原敬之編曲の楽曲。驚くべきは、この出自の全く違う曲たちが、完全に矢野色に染め上がられて、違和感無く並んでいることだ。特にカバー曲は、独自の音楽要素を持ち込んで、不思議な異化効果を挙げている。カバーで原曲を越えてしまう数少ないアーティストである彼女の本領発揮だ。

 最近作は、フュージョンぽい音が多かったが、本作ではそうしたサウンドは影を潜めて、シャープな音像が印象的。矢野顕子は相変わらず矢野顕子、そしてサウンドが僕好みなら、もう文句無し。この優しさ溢れる音楽を、ゆったり楽しみましょう。