Vol.2 FEB/1997



blur "blur" (EMI)
 最初に聴いた後の正直な感想は、「なにもブラーがこんなことしなくてもいいじゃん」というものだった。

 英国音楽の豊穣な遺産の相続人であった彼らが、なぜこんなダウナー感覚に貫かれたアルバムを作ってしまったのか。モゴモゴした音質の向こうからは、人力トリップ・ホップともいうべきサウンドすら聞こえる。覚悟していたものの、この変貌にはかなりとまどった。

 しかし、そうした「お行儀の悪い音」の気持ちよさに気づけば、このアルバムの良さが一気に見えてくる。曲も、場合によってはキャッチーさを犠牲にしてまで、極めてよく練られている。そしてなにより、これまでの彼らとは比較にならないくらい肉体感に溢れている。彼ら特有のユーモアも健在だ。

 過渡期の作品という印象が強いこのアルバムは、傑作とはいえないだろう。しかし、英国音楽の未来への優れた回答であり、バンドの見事な進化だと思う。

 オアシスとの勝負から、一足早く降りた彼らの潔さが好きだ。



パラダイス・ガレージ "豊田道倫" (POR SUPUESTO)
 パラダイス・ガレージは豊田道倫によるソロ・ユニット(たぶん)。自宅録音というものは、アーティストの衝動が生々しく記録されうるが、彼自身の名を冠したこのアルバムは、まさにその典型だ。会ったこともない豊田道倫が、いきなりそこに現われる。

 このアルバムの白眉は、4曲目「町の男」だ。就職と退職を繰り返す「あたりまえのこと」ができない男をギター1本で歌ったこの曲は、恐ろしく胸に響いてくる。自己憐憫ではなく、ただ無力感に溢れた歌。ギターの弾き語り、ノイズ寸前の音塊、アンビエントなサウンドなど、どんなサウンドの曲でも、こうした無力感や虚脱感に満ちている。他人事とは思えない気分になるが、その一方で、聴き手の思い入れを拒絶するようなかたくなさも彼の歌は含んでいる。

 全21曲、聴けば聴くほどけだるくなる。それが逆説的に癒しにもなるような気がする。自信ないけど。



SUGAR FIELDS "melodious world" (PONY CANYON)
 こちらも多重録音派で、原朋信によるソロ・ユニット。

 音楽的には特に目新しい部分はないんだけど、タイトル通り、とにかくメロディーがいい。加えて、エッチくさかったり毒があったりで、かなり歌詞もひねくれ気味。妙に飄々としているのも印象的だ。ただ、この凡庸なサンドなら多重録音の必然性はあまり無いかもしれない。もっと変なことしてよ。

 あと、ジャケットをはじめとするデザインのセンスがかなり悪いのも難点。



猪頭皮 "和諧的夜晩OAA" (魔岩唱片)
 ツートゥーピー(だったと思う、この読み方)は、台湾のラッパーとして数年前に有名になった人物。小林旭やりんけんバンドなどの音源を使うあっと驚くサンプリング感覚と、社会時評的なライムで、一躍才人として知られるようになった。一見イロモノに見えるのも、周到な計算の上だろう。

 そんな彼が、今度は台湾の少数民族の民謡を現代化したアルバムを出した。ラップではないのだ。しかも民謡の現代化というのは、簡単に見えて、たいがいが失敗する。安直に打ち込みサウンドにのせればいいと考える輩の何と多いことか。

 ところがこのアルバム、意外といいのだ。1曲目でいきなりジャングル風のリズムが炸裂して面食らうが、思いの外無理がない。全編打ち込みのクラブ系サウンドにのせて民謡が歌われるのだが、かなり丁寧なサウンド作りが行われている。民族楽器の音色も違和感無く使われている。ひょっとしたら、これはかなりの傑作かもしれない。

 数年前DEEP FORESTが、台湾の少数民族・アミ族の歌声をサンプリングした「return to the inocence」(だっけ?)とかいう曲を大ヒットさせたが、少なくともあれよりははるかにマシだ。ツートゥーピーには、少数民族の音楽への敬意がある。

 異端に見えながら、実は極めて優れた音楽家。やはりこの男、相当な才人だ。



mari boine "RADIANT WARMTH" (ANTILLES)
 mari boineは、ノルウェー最北の民・サーミー出身のシンガー。彼らの民族音楽であるヨイクを、現代において発展させている。かつてはREAL WORLDからもアルバムが出ていた。

 彼女の魅力は何といってもその声だ。ヨイクの伝統的な発声法に根差したと思われるその声は、深くしなやかで、同時に厳しさを併せ持つ。

 演奏にはギターやベースなど電気楽器も導入されているが、あくまでも彼女の歌声を中心に据えており、ストイックな演奏が秀逸だ。

 派手さはないので、聴き通すには多少の集中力が必要。しかし、時に雄大に、時に激しく、たった6人とは思えない広がりを見せるアンサンブルはなかなかの衝撃だった。