CD REVIEW Vol.39 (side A) MAR/2000



青山陽一 "EQ" (TOKUMA JAPAN)
 「洗練」と表現すると無菌にでもなったかのような誤解を招きそうだが、「EQ」は、やはり洗練の度合いが高まったと言うのがふさわしい仕上がりだ。彼の音楽の場合、その細身+眼鏡のルックスからはにわかに想像できないほど黒さのあるサウンドと、声質とのバランスの取り方が重要なポイントであると思うが、「EQ」はすべてが非常にナチュラルに鳴っていて、猥雑さを深くその奥に隠した上でのしなやかさがある。抽象的な表現だらけであるために聴き手の想像力を刺激してやまない歌詞も含め、本来は同列に並びそうもない要素を吸い込みつつ、飄々と自分の音楽を提示している姿勢も彼の魅力だろう。その一方、ラストの「Good Aliens」ではゲストにソウルフルなボーカルのポコペンを迎え、正攻法のブルーズ・ナンバーをプレイしているのも清々しい。サンクスにJohn McEntireの名があるので、そちらの界隈とのコラボレーションも期待したいところ。



細野晴臣 "HOSONO BOX 1969-2000" (DAISYWORLD)
 歌モノ2枚+インスト1枚+レアトラック1枚から構成される4枚組。オムニバス盤に収録されていた音源も数多く含んでいるので、彼のアルバムを一通り聴いたつもりの僕でも初めて聴く曲が多かった辺りに鈴木惣一朗の選曲が光っている。100ページ以上あるブックレットは録音技術の発達についても詳しく、また楽曲解説を読んで意外だったのは、細野晴臣のリズムに対するこだわり方だ。「北京ダック」がマイティ・スパロウ、「The Madmen」がキング・サニー・アデの影響だなんて、言われなきゃ気付かないところだった。アフリカ好きだったとはね。

 個人的によく聴くのは歌モノで、特にYMO以前の70年代の音源が自分でもよくわからないほど気に入っている。きっと僕は細野晴臣の声が好きなのだ。アルバムごとの方向性の変わり方の激しさはいまさら言うまでもないが、その節操のなさを証明するこのボックスを聴いていると、しかし彼の個性は節操のなさ自体にあるとよく分かる。ただ、彼のアルバムはソロもユニットもほとんどを聴いている僕が、アンビエント路線は好きになれずにHATのアルバムを聴かなかったのは、アンビエントという形態の中では彼の魅力がいまいち出しきれてないような気がしたからだ。ポップスの枠から平気で出ていけてしまうのも彼の魅力には違いないけれど、やはり俗世と向かい合った曲の方に僕は面白さを感じる。

 レアトラックスで良かったのは75年の中華街ライヴ。トロピカル路線はインチキ臭いようでかなり元ネタが非常によく消化されていたことが、しなやかな演奏から伝わってきた。



YO LA TENGO "and then nothing turned itself inside-out" (MATADOR)
 午前3時から始めるホーム・セッション。闇の中で口ずさんでいるような歌のイメージをジャケットはよく伝えている。ギターが大きく鳴っているのは「Cherry Chapstick」ぐらいのもので、単調さや弛緩と背中合わせの音楽だ。それなのに77分も引っ張れてしまうのは、イマジネーションを最大に引き出すツボを心得ているからだろう。声を張り上げることもないボーカルと、それに寄り沿うようなリズムとギター。「You Can Have It All」のようなポップな曲をもっと作れる人たちなのは間違いないのに、このストイックなまでの世界の貫徹ぶりは一体なんだろう。このアルバムを流せば、真昼でも深夜のような気分に。



"Chicago 2018 ...It's Gonna Change" (clearspot)
 JIM O'ROURKEやTORTOISEなどシカゴのアーティストを集めた2枚組オムニバス盤。いわゆる音響派方面のミュージシャンが中心なのかと思ったら、艶のあるストリングスBOBBY CONNの曲にいきなり意表を突かれた。SAM PREKOPはエレクトロの控えめな使い方が効果的。揺らぐような音とプチノイズによるサウンドのBUNDY K.BROWNはかなり前衛寄りだ。FREAKWATERは音響派カントリー?

 全体としては静謐さの中で緊張感を高めていく楽曲が多い。そして意外だったは、フリージャズ系のアーティストの多さ。CHICAGO UNDERGROUND DUOやSLAM!、NRG ENSEMBLEをはじめ、TRICOLORやLSOTOPE 217もフリージャズの影響下にあるアーティストだろう。シカゴからはまだまだ面白い音楽が聞こえてきそうだと期待させるこのアルバムは、そうした多彩な音源を流れをもたせて聴かせる編集も見事。



STEVIE WONDER "TALKING BOOK" (MOTOWN)
 72年作品だからつまり僕の生まれた年。バラエティーと楽曲の完成度とアルバムの流れの美しさ、どれをとっても素晴らしい。粘り気のあるサウンドとコーラスが絡みあう「MAYBE YOUR BABY」もたまらないな。ソウルフルな「SUPERSTITION」、フォーキーな「BIG BROTHER」、そしてメロウな楽曲の数々を聴いていると、このアルバムが後世にいかに大きな影響を与えたかが分かるというものだ。しかも、2人のボーカリストに導かれてSTEVIE WONDERが歌い始める「YOU ARE THE SUNSHINE OF MY LIFE」の、キーボードとコーラスの音色、そしてメロディーの美しさといったら…。しかもタイトルが「YOU ARE THE SUNSHINE OF MY LIFE」。君は僕の人生を照らす陽の光だ。もう泣けてくる。