since 14/DEC/96
 
小心者の杖日記
 
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731日 (fri)

 SLAPP HAPPY「CA VA」、水谷紹「Open - Closed」、平安隆「かりゆしの月」購入。最近、本を買うペースが読むペースを完全に追い越してるが、それでも「雪色のカルテ」設定原画集、宮谷一彦「肉弾時代」を買ってしまった。

 SLAPP HAPPYについては何の知識が何もなくて、周囲の評判だけで聴くことにしたんだけど凄くいい。水谷紹のアルバムは今年2月に出たものだそうだが、先日のムーンライダーズのライブで彼のチラシをもらうまで知らなかった。かつて愛聴した彼の2枚のアルバム同様に、この自主制作盤も変らぬ世界を展開していて嬉しい。ちょっと現代音楽が入ったかのようなサウンドの構築感覚も、男女のセクシャリティーの境界をさまようなねじれた歌詞も健在だ。アートワークも良くて、独自の世界を貫いているのが素晴らしい。元喜納昌吉&チャンプルーズの平安隆の初ソロ作は、ソウルフラワーユニオンのメンツが参加。味わい深くてエネルギッシュ、コンテンポラリーな沖縄音楽として非常に優れていると思う。最初聴いた時には興奮してしまった。

 「雪色のカルテ 設定原画集」は、原画よりもゲームの画像が多い。でも難しいこのゲームじゃ、僕の見られない画像もたくさんあるだろうからいいか。期待していた攻略法も、すでに雑誌やネット上に流れてるものと大差なくて残念。でも文句付けつつも買ってしまうのが悲しいなぁ。

 本当はもっと初期の作品を読みたかった宮谷一彦だが、この「肉弾時代」も充分楽しめた。いや、楽しめたってよりも衝撃的といった方が正確か。肉体と暴力の美に憑かれた男たちの物語であるタイトル作を、夢中で読んでしまった。「Quick Japan」のインタビューで宮谷は、注目している作家として新井英樹と遠藤浩輝を挙げていたが、この2人に気付くことの出来る彼なら、新作も煮えたぎったものをかましてくれそうだ。

 
730日 (thu)

 今日は寝ていたことしか記憶にない。昼まで眠っていて、さらに夕方から夜までベッドの上にいた。こうなると起きてる時間よりも寝ている時間の方が長いわけで、起きた後は見た夢のことなど覚えていない僕にとっては、1日の記憶がゴッソリ欠落しているようなものだ。

 あ、たしか昼過ぎに本屋に行って、「YOUNG KING OURS」を買ってきたんだ。目当ては犬上すくねさんの新作。僕にとっては「3丁目の夏」や「My Little World」みたいな研ぎ澄まされた感覚で描かれた同人誌の印象が強いんだが、今度の「好き☆すき☆まお先生」みたいな、ちょいHで甘い系も彼女の得意技なんだろう。

 同じ号に載っていた、やまむらはじめ「最後の夏」は予想外のヒット。夏空・入道雲・埃のたつグラウンド・屋上で煙草…なんて要素が揃って、舞台は高校の陸上部と来たもんだ。こういうやるせない青臭さを描いた作品は大好きだね。この作品みたいに、その青臭い自意識を巧みにコントロールして表現しているならなおさらだ。VIVA青春。

 なんて思いながらも僕の頭は曇天模様で、ベットに転がったまま。また眠気が襲ってきて、さっきからステレオサラウンド状態で鳴り響く雷がうるさいったらありゃしないとか考えているのだ。青春からはほど遠い我が身だなぁ。

 
729日 (wed)

 会社の近所の古本屋に宮谷一彦の単行本を探しに行ったが、発見できないまま帰る。青林堂から出た本があったと思ったんだが、その古本屋は売れる量以上の本を常に買い入れているので、通路に積まれた本の山にさえぎられて、肝心の本棚が見えやしないのだ。店内はいつでも飽和状態で、歩けないほど買い込んでどうするのだと呆れてしまいそうだが、僕の部屋のことを考えると人のことは言えないか。店の横の露地では、雨ざらしにされた雑誌が腐って土に帰っていく様子が観察できて、小学生の自由研究にも役立ちそう。いつもワイドショーを見ながら震える手で本を読んでる主人も味のある人物だ。

 もう彼の本は買わないと思っていたのに、岡田斗司夫の「国際おたく大学」を購入してしまった。これってネット上の国際おたく大学の内容とダブるのかもしれないが、とりあえず押さえておきたくなるのが人情というもの。もっとも、こういう心理はあの古本屋の主人と共通するもののような気がして、ちょい怖い。

 
728日 (tue)

 久しぶりに近所の図書館に行ったら、妙に雑誌棚の本が少ない。ったく、ひとりで何冊も持ってくなよ…と思いきや、「この雑誌は4月で購入を取りやめました」的な内容のシールがいくつも貼られていた。おかげで雑誌棚はスカスカで、入居者の少ない公団住宅ってこんな感じ?と無意味な連想をしてしまう。それにしても、「文藝」「現代詩手帖」「SFマガジン」「週刊金曜日」、みんな購入停止だ。こりゃけしからんと憤ってみたが、4月以降は図書館に来たことすらなくて、今日初めて気付いた僕には関係ない話だな。僕の場合、雑誌も書籍もとりあえず自分で買い込んでしまう習性があるんで、絶版本を探す時以外は図書館なんて利用しないし。でも「現代詩手帖」が消えて「鳩よ!」が残ってるのはなぜなんだろう。そんなことを考えてはみたものの、「鳩よ!」の町田康の連載「耳そぎ饅頭」を読んだら面白かったんでどうでもよくなった。

 毎月28日は「天然コケッコー」の日。今決めました。今日発売の「コーラス」に載ったscene45でも、329ページと335ページの3コマが同じという実験作ぶりだ。1話完結のようで絶え間無く連続していく物語構成や、ほのぼの系に見えて実はクールな視点を持ち合わせた人間描写はやはり魅力的。コマとコマの間が太線だけってのは有名だが、同じ対象を同一アングルから連続して描くパターンが多いことも指摘しておきたい。それでマンガ自体が面白いんだから文句なしだね。もっとも僕の場合、この作品を好きな理由として、匂わない郷愁を求める都会人のエゴもありそうなんだが。

 
727日 (mon)

 パラダイス・ガラージ「I love you」、「Quick Japan」vol.20購入。パラガのシングルは、庵野秀明監督「ラブ&ポップ」の予告編2ヴァージョン目で使われた曲。女の子たちが海辺で遊んでいる映像にかぶさっていた、ギター弾き語りの例のやつだ。以前パラガの豊田氏と話す機会があって、予告編の曲が良かったと言ったら、「そういうの初めて言われた、嬉しいなぁ」と応えてくれた。当時僕の周囲では、あの曲がけっこう話題になっていたのだ。今回発売されたのはその新録で、恐ろしく不安定でぎこちなくて、そして切ない。特に1番の歌詞がいい。グシャグシャしたサウンドもいが、音楽的なこと云々なんか抜きにしても、こういう歌は大好きだ。一方、カップリングのインスト曲「1998」は福富幸宏と一緒に編曲してるんだけど、妙に清潔な印象。福富幸宏のソロアルバム初期2作は聴いてるんだが、引っ掛かるものが無くて、自分のハウス嫌いを自覚するきっかけになったことを思い出した。昔の話だが。

 「Quick Japan」を半分読んだ限りでは、ダイナミックプロの記事が面白かった。この誌面の中では、すっかり年配読者向けですな。

 
726日 (sun)

 一睡もしないまま午前5時過ぎに「マイアミ」を出て、立ち食いそば屋で朝食を胃に流しこんでから、平澤さん&服部さんと別れる。2人はこれから自宅に帰れるのだが、彼らの背中を見送る僕は、残念ながらそうはいかない。こばこ嬢の家に行って、彼女の夏コミ本を手伝う約束をしてしまっているのだ。入稿の月曜までに奥付だとかネームの作成をすると安請け合いしてしまったので、それを今日中に届けなければならないわけだが、一旦家に帰ったら確実に寝てしまい、間違いなく行かないままになってしまう。徹夜になることを予想して、すでに鞄の中にはブツが入っているし、もはや選択の余地もなく、地下鉄に乗り込むことになった。

 駅に着くと雨が降っていて、ひどく悲しくなった。電話をすると、俺に頼み込んだ側であるはずのこばこ嬢は、「こんな時間に来たのかぁ?」と呆れたような声を出す。頼まれて来てやったのに…と思ってみても、こっちの行動も充分妙なので怒れない。車も走らない日曜の朝の大通りを歩く間も、雨は降り止まなくて、ますます情けない気分になる。

 フロッピーに入れておいたデータを打ち出してから、その辺に転がって一眠りしていると、こばこ嬢の友人であるAさんがやって来た。いきなり寝ている僕がどう思われたかは分からないが、もうそんなことを気にしていられる状態ではない。彼女たちは、原稿の仕上げをしたりネームを貼ったりと、気の遠くなるような細かい作業を始め、なんとなく僕も帰れない感じになる。飼われている座敷犬の相手をしながら、時々手伝って、床に寝転がっては、濁った液体を流し込んだかのような頭で「俺は何をしているんだろう」などという無益この上ない自問自答をしていた。

 一段落したとは思えなかったが、自分の体力温存を最優先するため、夜になってから帰ることにする。そして36時間ぶりに帰宅。昨日の朝から一日が連続しているので、もう何がなんだか分からない。頭も身体も疲労の局地で、死ぬかと思った。いや、もう死んでるのかも。

 
725日 (sat)

 ムーンライダーズのライヴを観るため、北海道からやってきたEMIを迎えに羽田空港へ行き、赤坂ブリッツまで引率。彼女の乗った飛行機が遅れるわ、会場で合流予定だったU−ROさんは急に仕事が入るわで焦ったものの、なんとか3人揃って東京公演2日目を観ることができた。

 基本的には昨日と同じ内容だったけど、演奏曲目などは一部違っていた。この辺の話はネタバレを回避するために割愛。手抜きじゃないっすよ。

 今日も乾杯に出て、それから打ち上げへ。恵比寿の会場に着いたら路上で飲んでて驚いたんだが、店内に入りきらなかったらしい。そんな状況の中でもろもろの話などして、午前2時前にはお開き。すでに帰宅が絶望的になった僕と平澤さんとライターの服部さんとで、恵比寿周辺の店を探したものの、どこも閉じ始めたんでタクシーで渋谷へ向かう。駅前のマイアミに入って、音楽業界よもやま話や平澤さんによる佐野元春の物真似を聞いたりして、始発までの3時間を潰すことになった。

 
724日 (fri)

 赤坂ブリッツでのムーンライダーズのライヴへ、ヤマナさんと行く。赤坂駅には「ムーンライダーあるよ」と連呼するダフ屋がけっこういた。

 ネタバレになるのでライヴの詳細には触れないけれど、あれは感動したね。躍動感と繊細さと深みと馬鹿馬鹿しさが、なにもそこまでってくらいに展開されて、オヤジ連中(失敬)があんな真似をしてることがえらく痛快だった。年寄りの冷や水っていうよりも、周囲に冷や水ぶっかけてはしゃぐ年寄りって感じだ。個人的にはあの曲のあのアレンジが良かった…と言いたくなってしまいそうだけど、それは今後の公演をみる皆さんのために喉の奥に押し込んでおこう。

 終演後、会場での乾杯に出てから、関係者の方々と食事して帰宅。赤坂の街も地下鉄駅の構内も、蒸し暑いのなんのって。

 
723日 (thu)

 今日も飽きずにマンガを買い込む。水野純子「PURE TRANCE」、藤原薫「禁断恋愛」、井上三太「井上三太」、たくま朋正「鉄コミュニケイション」購入。脈絡の無いセレクションだ。

 水野純子「PURE TRANCE」はマンガの単行本なのに左閉じなんだが、これはavexのオムニバスCDシリーズのブックレットに連載されたものを集めたもの。可愛らしい絵柄なのに、内容は毒々しくて残酷でグロテスク。でも違和感が無いんだから完成度が高いんだよな。

 「きみとぼく」で活躍している作家らしい藤原薫は全く知らなかったのだが、17歳の友人に勧められて買ってみた。なにせ、遠藤浩輝や魚喃キリコと並んで好きな作家だというんだから気にかかるってもの。線の細い絵はすごく神経質な印象で、物語も耽美と不条理が入り混じったような世界だ。

 たくま朋正「鉄コミュニケイション」は、主人公がアスカに似てるっていうんで買ってみただけ。というか、エヴァの影響が「おいおい」ってくらいモロだ。話の方はぬるくて、いかにも「電撃大王」連載作品っぽい。といってもあまり読んだことないんだけど。

 
722日 (wed)

 岩崎保子「世間知らず」読了。仕事に就いては辞めてしまう画家志望のエリコは、やりたいことをやるため生活のために働くことを投げ出したものの70円しか手元に無くなり、ゲイの友人・夏樹にもとへころがりこむ。以前からアルコールを手放せなくなっていたものの、やがて完全なアル中になり、24時間酔っ払い続ける生活になる。自活せねばと思っていながら、酒に手を伸ばしてしまう無限地獄の中、酒代を減らそうと外国の飢えた子供たちへの慈善事業に参加してみても、結局リーダーの夫と不倫してしまうだけだ。自堕落な質ではないと思いつつもやはり自堕落。自意識をコントロールできない主人公のダメっぷりは、どうにも他人事と笑ってられなくて、読んでてヒリヒリ胸の痛むものがある。でかい一発なんて何も起きない生活の中で「未来」を夢想していただけだったと気付く場面も、我が身のことのようで痛いったらありゃしない。

 不倫を繰り返すエリコは、子供を持ちたくないと願う。それは母がガンで入院している間に他の女と子供を作っていた父親への反発だ。そして終盤、父の死によって、今まで持っていた自立しなければという思いは父への意地であったことに気付かされる。彼女はひどく怠惰になり、酒の飲み過ぎで膵炎になって入院。退院後はアルコールを断ったものの再び手を出して、夏樹に見つかってしまう。しかし夏樹は怒らない。そんな夏樹は生殖を目的とした関係になることのない相手であり、彼に甘えてしまうエリコは、自分の父のようになることのない、新しい「父親」を見つけたのだ。なんとも皮肉な終わり方じゃないか。トラウマから逃れられず、自意識の重みにも耐えられない。そんな人の業の深さを描いたこの作品、自嘲的な空気もありながら、ひどく切なかったりするのだ。

 
721日 (tue)

 あー眠いったらありゃしない。昨日までの旅行のおかげで気分は昂揚してるんだが、身体の方は予想以上に疲れ切ってしまった。休日ぐらいゆっくり寝ないとキツい歳になってきたようで、もう仕事なんか手につきやしない。

 それでも物欲だけは覚醒したままで、退社してから渋谷へ直行。入荷から4日が経過したムーンライダーズ「月面讃歌」、喜納昌吉&チャンプルーズ「赤犬子」、JEFF MILLS「PURPOSEMAKER COMPILATION」、Pedro Luis e A Parede「Astronauta Tupy」を、探し回るのが面倒なんでタワーでまとめて購入。スクラッチカードを10枚ぐらいもらったんだが、こういうのって上手く行ったためしがないんだよな。っていうか、削るのも面倒さい。

 重い身体を引きずって次に向かったのはまんがの森。山中音和「瞳が泣くから」、谷川史子「外はいい天気だよ」、古谷実「僕といっしょ」1・2巻を買って、トドメは夏コミのカタログだ。厚さは約3.5センチ、重さは2キロぐらいあり、真夏の有明に生まれる異世界へのパスポートであることを実感させるに充分な存在感だ。っていうか、重過ぎ。ちなみに14日は西む22b「べいめんとるうむ」(with ジミーさん&植田さん)、16日は西よ42a(with こばこ嬢)に参加してます。酔狂な方は遊びに来て下さい。

 ところで、レコファンで見つけた「PLACEBO」ってフリー冊子は、サブカル系の情報をほどよくダラけた調子で紹介していて面白かった。大学時代とかはレコード屋に置かれてるフリーペーパーをまめにチェックしてたんだけど、インターネットが盛んになってからはフリーペーパー系の人がネットに流れ込んだ印象があって、こういう面白いペーパーは久しぶりに見た気がする。僕も昔は友人とフリーペーパーを出そうと計画したことがあったんだけど、流通の問題がネックになってやめてしまった。ネットはそうした問題がないぶん便利なんだけど、手作りのフリーペーパーの味ってのもいいもんだと再確認。

 あと、まんがの森のレジにあった水野純子個展のポストカードも、可愛らしくも血塗れで素敵です。

 
720日 (mon)

 夏のプチヴァカンス・伊豆旅行2日目。朝の7時半に起床して朝食を食べた後、皆で近くの河原へ散歩に出掛ける。まさに清流って感じの川で、よく見ると小さくて細い稚魚たちが数え切れないほど泳いでる。岩を渡ろうとして片足が滑ってしまったが、その水の冷たさもまた心地いい。気分は天然コケッコーの世界だった。

 それから西伊豆に向けて出発。その時点で、仕事や太田裕美のサイン会といった理由で2人が帰り、人の出入りが激しいこの旅行、総員は6人になった。僕たちはまたバスを乗り継いで土肥に行き、とりあえず海へ行くことにする。泳ぐのには寒いかな?という感じだったが、そう思った頃に陽が照ってきたので海に入ることに。ところが準備が整った頃には太陽は再び雲の中で、海の水は恐ろしく冷たいという非常な現実が待っていた。一度肩まで浸かれば慣れると思ったが、かえって寒さが増すばかり。おとなしく浜辺で遊ぶことにすると、有馬さんは腰だけ砂の中に埋めて一見全裸で埋まっているように見せるというアート活動に取りかかりはじめる。完成してみるとなかなかのセクシーさで、武田久美子の貝殻ビキニも辿り着けなかった領域に到達といった感じだった。

 ビーチのそばの温泉に入ってから、蕎麦やかき氷を食べ、高速船に乗って今度は沼津へ。潮風に吹かれてたり飛沫を浴びたりで髪はバサバサになったが、海を突っ切っていくのはすごく気持ちいい。沼津に到着後、ネコに薬をやるため桝野さんは東京へ。沼津の友人に電話したところ時間があるというので会うことにして、僕も旅団から離れることにした。港から沼津駅まで歩いて、Oさんと待ち合わせ。喫茶店でもろもろ話して、沼津の街中を案内してもらった。港のある町って、なんかいい感じだ。日が沈み始めた頃、帰路につく。

 ともあれ、1時間先の予定も決まっていない旅行がこんだけ楽しいってのは、日頃神経ばかり使ってる僕にとって非常に新鮮な体験だった。マニアックな話から真面目な話、お下劣な話までいろいろ飛び出し続けて、なんかずっと笑っていた気がする。誘って下さった有馬さんと晄晏さんに感謝。この旅行みたいに、フリージャズの即興演奏をするように人生も渡っていけたら楽しいだろうなぁ、なんてこともチラッと考えた。

 
719日 (sun)

 特急踊り子号に乗って、一路伊東へ。今日と明日は伊豆旅行、しかも全員一度も会ったことのない人々と行くという、やや無謀な旅だったのだ。

 ことの始まりは、有馬岳彦さんからのお誘いだった。「こんにちはアイドル」のレヴューをo u t d e xに載せたところ、その本に参加していた有馬さんからメールをいただいて、次いで有馬さんの紹介でライターの晄晏隆幸さんともメールをやり取りするようになった。で、このお2人はかつて「よいこの歌謡曲」という伝説的なアイドルミニコミ誌に関わっていて、今回はその関係者の恒例の伊豆旅行に誘ってもらったというわけ。業の深そうな濃い人が集まるところなら、僕はホイホイ出掛けますよ。

 僕の顔の画像を有馬さんに見せるのを忘れたためにお互いの顔が分からないという、通常なら絶望的な待ち合わせだったのだが、なぜかお互いに相手の雰囲気を察知して、無事合流することが出来た。僕は8人目の参加者となり、まず一行は昼食をとることに。海沿いの海産物料理の店に入ったのだが、その時点で晄晏さんと僕の間では「くらもちふさこはいかに偉大か」というテーマの話題になり、旅は好調な滑り出しを見せた。

 そこから宇佐美まで移動して海へ。曇天で気温もやや低かったが、入ってみれば何とか慣れるものだ。初めてボディーボードに挑戦してみたが、上手くいくと面白いように波に運ばれて行く。問題は成功の確率が低いことだったのだが、それを解決する前に体が冷えきってしまった。夢中になってやり過ぎたようだ。  夕方、海から撤退する段になって、特殊歌人の桝野浩一さんが合流。それから修善寺のさらに奥地の宿へ向かうため、バスを乗り継ぐことになる。しかし、なかなか宿が取れなくて、一時は野宿も検討されたことも考えれば、辛いどころか旅情さえ漂ってくるというものだ。

 宿の温泉につかったあとは、会話は意外と真面目な方に流れる。全員が現役のライターあるいはライター経験者ということもあって、評論の姿勢とはどうあるべきかというかなり深いテーマについての話となった。各自の意見が食い違う部分もあるからこそ、一番の若輩者である僕にとっては非常に勉強になって、まさに拝聴って感じだった。あまりにもいい話だったので、これ以上の内容は秘密。

 そんな語り合いもしながら、夜の1時くらいになってから花火へ。周囲の迷惑も考えて音のしないもの限定で、大量の花火で丸1時間ほど遊び、すっかり童心モードになって布団へGO。

 
718日 (sat)

 午後、こばこ嬢の夏コミ用同人誌の表紙の入稿に同行する。別に僕は絵を描いていないんだが、表紙のデザインをやったので、色表を見て色の指定をするため、一緒に三鷹まで行くことになった。三鷹駅からバスに乗って10分ほどのところにある会社だ。玄関に入って「こんにちはー」と言ったものの、作業場らしい1階には人気が無くて、やがて出てきた若い女の人に「スリッパを履いて2階へどうぞ」と言われる。こういう同人誌専門の印刷所って初めて行ったんだが、なんか町工場 meets オタクって感じの独特の雰囲気だ。

 2階には受け付けがあって、すでに他のサークルの人が表紙入稿に来ていた。我々もすぐ入稿しようとしたのだが、いかんせん原稿が汚れただのトーンが剥げただのと、こばこ嬢が受け付けで原稿を手直しを始めてしまった。頭からこれだ。それが終わってから、色や用紙の指定、本編原稿の入稿日や搬入方法などを決める。費用は28ページの本100部で3万円ぐらいで、基本価格に含まれる基本色以外のインクを使ったため、やや高めとなった。あとはこばこ嬢が予定通り入稿するだけなのだが…。

 その彼女が、不意に誕生日プレゼントとしてくれたのが、エヴァチップスのロング缶2本。彼女のバッグの中にウエットティッシュのケースみたいなデカいものがあることには気付いていたが、ロング缶を2つも運んできて僕によこすとは思ってなかった。鞄の中になんとか入ったから良かったが、ダメだったらスーパーの袋で持ち帰らなければいけないところだった。

 夜は渋谷HMVでのムーンライダーズのイベントへ。新作「月面讃歌」の発売記念のミニライブ&握手会だったのだが、いざ行ってみたらCDは全部売り切れだっていうじゃないか。当然イベントの整理券ももらえないわけで、冗談キツ過ぎって感じだ。仕方ないから離れたところで見ることにしたら、僕も執筆させてもらったムーンライダーズ公式本「20世紀のムーンライダーズ」の編集長である塚田さんと会うことができて、出来たばかりの本をいただいた。常磐響による装丁も予想以上に良かったけれど、メンバーのインタビュー&データベースという構成の中身の方もすごいボリュームだ。特に辞典形式のデータベース「ENCYCLOPEDIA of moonriders」は、用語のセレクションからして面白い。ライダーズへのオマージュ漫画も、いしかわじゅん・江口寿史(原稿を落とさなかった!)・みうらじゅん・やまだないと・山本直樹という豪華メンツだ。自分が参加させてもらった本だけに、この仕上がりはとても嬉しい。連休明けには本屋に並ぶそうなので、見かけたら是非お手にとって見てください。

 イベント終了後、会場で知り合い方々と挨拶して、塚田さん・一緒に鈴木博文さんの取材をした平澤さん・「樫の会」のKRAFT.WARTZさんと食事して帰宅。結局、「月面讃歌」は買えず仕舞いだった。なんてこった。

 
717日 (fri)

 8月30日のコミティアで出る同人誌「PARKING!」3号の原稿を書く。マンガとマンガ評論から構成されている雑誌で、僕が担当するのは当然文章の方。今回はとにかく時間が無くて、o u t d e xのマンガレヴューの改稿に書き下ろしを加える形にする。申し訳ない気分で一杯。評価の定まった遠藤浩輝について書くのも「何をいまさら」と笑われそうだが、敢えて蛮勇(?)をふりしぼって書く。あと、やまだないと望月花梨の新刊についても書いてみた。

 ちなみにレヴュー関係の他のメンツは、編集長のヒタカさんのほか、「OHP」のしばたさん&本田さんブラザーズ、「すきまページ」の小田中さんという猛者揃い。書いててとにかくプレッシャーを感じるんだけど、こんな機会を与えてもらえるってのも有り難いことだと思う。今は有り難がってる場合じゃなくて、原稿を書かなきゃいけないんだけど。

 
716日 (thu)

 伊藤たかみ「卒業式はマリファナの花束を抱いて」読了。71年生まれの文藝賞出身作家の第3作目。もうすぐ大学を卒業するサラは、血のつながらない妹のエミリと暮らしている。不安神経症のエミリは、マリファナやらLSDやら覚醒剤やらでラリってばかり。UPなったりDOWNになったりして、その中間にある日常の感覚にはとどまりたくないのだ。そしてサラも、かつての恋人である京平のしつこさに疲れてドラッグに手を出しはじめる。エミリの実の姉は数年前に自殺していて、家庭はいつまで経っても安定しないまま。サラとエミリはそれぞれに揺れ続け、そしてお互いが持ち続けていた想いに気付くことになる。

 主人公の女言葉の使い方がどうも気になったが、それも「ポップな文体」と表現するとOKな気がしてくる。精神的葛藤と快楽原則の間で浮き沈みする毎日の描写は、軽やかながらも倦怠感に溢れた感じだ。根底にあるのは絶望感、最後に待っているのは崩壊。なのにラストは、そんなことを忘れたかのようにピースフルな疾走感に満ちていて、読んでいて気持ちいい。けっこうディープなテーマを扱っているのに、どこか甘い雰囲気が失われないのは、毒さえも飲み込んだ健やかさがこの作品にあるからだろう。

 
715日 (wed)

 サニーデイ・サービス「24時」、SABE「BEAUTIFUL MONEY」、「COMIC BOX」8月号、宮崎哲弥「身捨つるほどの祖国はありや」購入。サニーデイはCDシングル付きで計80分の大作だけど、値段は3000円ちょいでお買い得。南Q太のダンナでもあるSABEのマンガは、読んでると相原コージの「コージ苑」あたりのテイストを思い起こさせる馬鹿馬鹿しさが魅力だ。8月号とは名ばかりの不定期発行誌「COMIC BOX」の特集は「20世紀の少女まんが」。新旧の少女マンガ家の紹介が中心で、現在少女マンガに挑戦中の僕にはタイミングのいい企画なんだけど、この人選とか作家性の捉え方が正しいのかは知識不足でわからないな。宮崎哲弥の社会時評集は、もう増刷予定無しで版元が注文を受け付けていないらしいのだが、やっと発見することが出来た。

 ところで、実をいうと今日は僕の誕生日だった。この歳くらいになってくると誕生日が嬉しくなくなってもくるんだけど、それでも、しばらく音信が無かった相手からカードが届いたり、思わぬ人たちからFAXが来たりで、やっぱり喜んでしまった。調子に乗って、来年には「俺を祝おうぜ!」とか言い出すくらい図太くなってるかも。

 それにしても驚いたのが、SUBMENTAL EXPLOSIONのlaさんと僕が同じ誕生日だということ。いやはや、おめでとうございます。しかも、laさんと僕は実に5歳も年が離れてるっていうんだから気が遠くなる。彼とは2度じかに会ってるんだけど、それほど歳が離れてるとは思わなかった。laさんは21歳になったそうなので、僕はとりあえず16歳になったということにしておこう。

 
714日 (tue)

 朝起きたら異常な腹痛。昨夜寒かったのにいつもの薄い布団で寝てしまい、ものの見事に夏風邪にやられちまった。しかし熱を測る時間も無くて、一度は出社のため駅まで行ったのだが、その時点でフラフラしはじめたので諦めて帰宅。仕方ないんで有休をとることにして、近所の病院へ。でもその時点では熱っぽいのに体温はいつも通りで、「お腹を冷やしたんでしょう」と老医者に片付けられ、なんか寝相の悪い幼稚園児あつかいされるハメに。しかし午後から熱が出始めて、熱冷ましをもらいに再び病院へ行くと、「やはり胃腸に来るタイプのウイルスの風邪でしょうかねぇ」だって。そりゃないぜドクター。言わなかったけど。

 それにしても急に体調を崩すと、本当に不安になってしまうもんだ。普段から不健康な生活を送ってはいる割に健康体で過ごしているので、突如身体に変調をきたすと何が起きたのかと驚いてしまう。腹は派手に壊すし、頭は朦朧として思考が定まらないし。考えてみれば、この間の冬は風邪もひかなかったなぁ。馬鹿なのか?

 結局1日中寝ていて、なんでこんなに眠れるんだと自分でも訝しがる。それでもまた目を閉じれば意識が遠いて、覚醒することのないままブラック・アウト。

 
713日 (mon)

 片岡吉乃「蝶々のキス」、柊あおい「耳をすませば 幸せな時間」購入。柊あおいの方は、ジブリで映画化もされた「耳をすませば」の続編。こんなものが出てるなんて、最近になって「月下工房#書評系」で初めて知った。マンガの方は、これは夢オチでは…と思っていると、本当に怒涛の夢オチが待っていて、同時収録の「桔梗の咲く頃」も併せ、めくるめく少女マンガワールドが展開されている。すれっからしの僕にはちょい照れくさいな。

 で、問題は「蝶々のキス」だ。いつもポーッとして、良く言えば子供のようにピュア、悪く言えば吃り気味で抜けた感じのマリと、無口で愛想の悪いボーイフレンド・千廣のふれあいを、15歳から18歳までの4回の夏を通して描いた作品。気性の激しい父・日記を盗み見る母・冷淡な姉。そんな家族との絆に縛られた息苦しさの中にいながら、家族を責めることもできず、他人の心の不思議さと記憶の傷痕にマリは苦しむ。また千廣とも、はっきりと恋人になるわけでもなく、キスはしてもそれ以上は心も身体もふれあうことはない。この物語で描かれているのは、縮まることのない人間同志の距離だ。受動的ながら純粋なマリみたいなキャラをめぐる話だけに、よけい胸に痛い。

 最終話では時間軸が交錯していて、さまざまな束縛から解き放たれていく姿が描かれる。歯車が噛み合わない水車みたいに日常は流れて、心に欠けた部分を残したまま、日々は過ぎ去りものに変わって行く。河原での釣り・雨宿り・夜のブランコ・流れて行く夏の雲。夏の切ない一瞬をすくい取り、心の揺れを鮮やかに描き出している。夏のまま止まった時間が封印されたような物語だ。

 マンガといえば、今日のスピリッツに載った松本大洋の「花」(後編)も素晴らしかった。324ページと325ページの見開きには、胸が震えてしまった。

 
712日 (sun)

 夏コミで出す本の表紙を作るのにうちのパソコンを使うっていうんで、こばこ嬢が来襲。描き物をするスペースを確保するために必死で部屋を片付けたんだが、物を積み上げ直すだけの「片付け」ではさすがに限度があり、本の山脈の間で身体を細めての作業となった。僕がパソコンで表紙・裏表紙用のロゴを打ち出し、彼女がそれに合わせてイラストをトリミングしたりするわけだが、2色カラーの表紙を作るんで、版下は2枚ずつ作らなければならない。要は、プリントゴッコの2色刷りたいなもので、オフセの場合は版下1枚につき1色ずつ指定していくわけ。紙やトーンを切って貼ったり、近所のコンビニまで行ってコピーとったりして、地味さ炸裂の家内制手工業状態だった。

 作業自体は順調に進み、夕方には完成。でも、彼女が必死になって運んで来た、でかくて重いトレース台を使わなかったのは気の毒だったなぁ。帰宅後はまたマンガの続きを描くという彼女を駅まで見送って、その足で選挙と散髪へ。

 o u t d e x更新、「Overwell's zone」「劇団.[宇宙的]」「フンジンコウバ」を相互リンクに追加しました。

 
711日 (sat)

 ジミーさんが東京に来るというので、ムーンライダーズ同人誌用の原稿を渡すことにする。これは「べいすめんとるうむ」として夏コミに出すもので、10数人が参加予定。時間ギリギリまで校正と打ち出しをやって、渋谷へ向かう。植田さんも来れるというので、3人で集まって喫茶店に入り、延々とよもやま話。ジミーさんから、ちょい早めの誕生日プレゼントとしてThe Residents'の「Eskimo」をいただいて大喜びする。揃うと会話に妙な濃さが生まれるメンツなので、頭がトロトロしそうになった。

 HMVで、SOUL FLOWER WITH DONAL LUNNY BAND「marginal moon」、beastie boys「heool nasty」、そして再発盤を買い忘れていたTHE BEACH BOYS「20/20」を購入。HMVは新装開店して一気に広くなったけど、探し回るのがちょい面倒だ。ソウルフラワーは、アイルランドのミュージシャンとの共演盤。それぞれのアイデンティティーが前面に出ているのに、一緒に音楽を奏でると意外なほど違和感が無くて、すごく懐の深い音楽が生み出されている。beastie boysは相変わらず、つまり文句無しにカッコいい。THE BEACH BOYSは、ブライアン以外の曲が多いけれど結構気に入った。

 
710日 (fri)

 文藝別冊「'90年代J文学マップ」をダッシュでチェック。90年代にデビューした若手作家を中心に、99人の作家を紹介し、文学の現状をおおまかに捉えた本だ。インタビュー・対談・エッセイなどもある。メインである作家ファイルのうち、90年代デビュー組は知らない作家が圧倒的に多くて、かなり有益。「文藝」出身の作家が多いんじゃないの?なんて勘ぐりもしたが、文芸誌をあまりよまない僕のような人間にはやはり便利だ。ただ、デビュー作が独立項目なので作品リストに無いってのは不親切かな。阿部和重のインタビューで一番驚いたのは、彼がくらもちふさこの「天然コケッコー」を読んでいて、説話上のテクニックについて言及していたこと。鈴木清剛の短編は少年が主人公で、ちょっと今までの作品とは違った視点から描かれている。中盤は全部会話文ってのも、小手先っぽいが嫌みがなくて面白い。他にも、黒人化・プロレタリア文学・セゾン系・ガジェット派などのキーワードで現在の文学が分析されていて、大上段に構えた「文学」が苦手な人でも、気軽に読んで活用できそうな一冊だ。

 てなわけで、これを参考にして早速本を買ってきた。チョイスしたのは、伊藤たかみ「卒業式はマリファナの花束を抱いて」、岩崎保子「世間知らず」、篠原一「天国の扉」の3冊。篠原一以外は「90年代J文学マップ」で知った作家で、不勉強ぶりがバレるというものだ。渋谷のパルコブックセンターは、この辺の若手作家は一通り揃えていて、やはりという感じ。これからまた本を読み続ける生活になりそうだ。

 
79日 (thu)

 山崎浩一「危険な文章講座」読了。面白くて1日で読み終えてしまった。

 文章講座とは銘打っているが、巷に溢れる文章の書き方マニュアルとは根本的に違っていて、体系的に知識を植え込んでいくタイプの本ではない。書き方の細かいことなんて、漢字とカナの閉じ開きについての解説ぐらいのもの。テクニック的な部分はひとまず置いておいて、まずは文章を書かせる気にさせようというのがこの本の目的だ。文章を書くということに身構えるあまり、バランス感覚や均整といったものに拘束されてしまうことを避けるための、思考と発想のトレーニングが繰り返されている。

 表現としての文章の多様性、抽象と具体の取り入れ方、自意識のコントロール、言葉が常に含む嘘など、ちょっと散漫に感じるほどテーマは多岐に渡っている。文と心は必ずしも一致しないことを示すために、酒鬼薔薇の犯行声明文を持ちだすのも彼らしい。それに限らず彼の文章は気の利いたウイットに富んでいて、読むだけでユーモアの滲ませ方の勉強にもなる。複雑な問題を説明していても、適度にくすぐりを入れ、文章を堅くさせないのだから見事なものだ。

 そして最終的には、日本語の持つ構造的な問題にまで踏み込んでいく。読み通してみると、実は日本語の言語表現のスリルやパドラックスについて広く語った本でもあった。本多勝一の「日本語の作文技術」とはまた違ったベクトルで、国語教育的な発想から遠く離れた文章読本だろう。

 
78日 (wed)

 福田和也「この国の仇」読了。表紙を開いていきなり現われるのは、グラス片手にカメラ目線の彼の写真だ。ツッコミのひとつも入れたくなるが、これも彼独特の自己演出なのだろう。

 子供の人権・男女平等・平和主義・歴史問題・規制緩和などを通して、民主主義や人権思想を批判し、国家と伝統の重要性を説くのがこの本の主眼だ。民主主義や人権思想の行き過ぎについての指摘や、「人権屋」への批判には、的を射た部分も多くある。でもまぁ、だから民主主義より伝統主義だとするのには、意図的な飛躍の匂いがするけれど。

 しかし、そんなことよりも重要なのは、ここまで腰の座った伝統主義を展開しながらも、読み手を引き込む福田の芸達者ぶりだ。暴力も肯定するリアリスト的な視点も持ちながら、語り口は目上の人々に講演しているかのようにマイルド。そして、バカ丁寧な言い回しで皮肉を言う巧妙さも、苦笑いしたくなるが面白い。この粘り気は好き嫌いの別れるところだろうが、この本に満ちているレトリックの豊かさは特筆ものだ。

 しかし、その穏やかな語り口の一方で、不意に刃がきらりと光る場面もある。「納税額と、あるいは兵役の有無などによって投票を制限することが、必要だと思いますよ」とさらりと語っておきながら、それ以上深く語ることはなく話題を変える。上手いなぁ。光ったのが、真剣なのか竹光なのか分からないのも、当代きっての確信犯・福田の深さあるいは不気味さを感じさせる。

 
77日 (tue)

 今日も飽きずに本を買い込む。マンガは、くらもちふさこ「おばけたんご」、望月花梨「コナコナチョウチョウ」「純粋培養閲覧図」、榎本ナリコ「センチメントの季節」第1巻を購入。活字系では、山崎浩一「危険な文章講座」、「文藝」秋号、「ダ・ヴィンチ」8月号を買ってきた。山崎浩一が「週刊ポスト」で連載している「情報狂時代」がかなり好きなので、「危険な文章講座」も出たらすぐ買う気だったのだが、今日まですっかり忘れてしまっていた。

 「天然コケッコー」で僕をすっかり夢中にさせてくれた、くらもちふさこの「おばけたんご」は92年に発表されたもの。死んだ友達の記憶や許婚といった物語の要素からして、「天然コケッコー」とはまた違った世界だ。優しい雰囲気の中にも、心が通じ合わない苦しみが描かれていて、描き方はっこうクールであることに気付かされる。なにより全体の構成がよくできていて、読み終わると同時に溜息を吐く。そして再び頭から読み直してしまった。

 「コナコナチョウチョウ」は、望月花梨の最初の単行本。彼女の作品には中学生が登場することが多いようで、ここに収録された作品群も、そうした思春期的な鋭さに貫かれている。他人との距離の取り方に苦しむ中に、そっと死や性が入り込んでくるのがスリリングだ。レベルが一定でない感もあるけれど、タイトル作や「夏はまだこれからだし」は素直に楽しめる。「純粋培養閲覧図」は、タイトル作と「カルスの花園」の連作を収めたもの。物語は一段と凝ってきて、印象的な絵も多くなっている。彼女のマンガには、無理があったり唐突だったりするところも多いんだが、ついもう1冊読んでしまいたくなる魅力を持った作家だ。あとがきでのおちゃらけ具合もいい感じ。

 
76日 (mon)

 日曜の夜はいつもなかなか寝付けない。昨夜も2時過ぎにベッドに入ったものの、まどろむ度に目を覚まして、結局3時過ぎに近所の新聞販売所が動き出す音を聞くことになってしまった。冷蔵庫に入っている安物のワインを飲もうかとも考えたが、鼓動が早くなるだけでかえって眠れなくなるだけだ。机の引き出しの奥のロヒプノールは、翌朝にいかにも薬らしいだるさが残ってしまう。結局、自転車やバイクが走り出す音を遠くに聴きながら、やっと眠れたのは4時近かったかもしれない。

 今朝は当然のように眠くて仕方が無く、午前中は辛くて仕方なかった。そのため久しぶりにエスタロンモカ錠を買ってきて、昼食後に服用する。鶴見済の「人格改造マニュアル」で紹介されてブレイクした、無水カフェインの錠剤だ。1錠につき100mgのカフェインを含んでいだけのシンプルな薬なのだが、それゆえ一度にあまり多く摂取すると心臓に影響が出てしまったりもする。

 とりあえず3錠ほど飲んでみたところ、簡単に効果が出てくる。仕事も一応はかどったのだが、すっかり薬が切れた後のことは忘れていた。僕の場合、だいたい3時間ほどで効果が弱まってしまうのだ。「睡気・倦怠感の除去」というのがエスタロンモカ錠の効能だが、薬が切れると、反動で睡気・倦怠感の両方に襲われてしまう。大脳皮質から全身へ疲労感が滲んできて、身体の隅々まで脱力感に冒され、帰りの電車は立ってるだけ苦痛になってくるほどだった。ともかく疲れたのだが、だからといって今夜ぐっすり眠れるとは限らないのも困ったもんだ。

 
75日 (sun)

 朝方一度起きたものの再び眠り、正午過ぎに再起動。外は暑そうなので部屋にこもり、昨日のパーティーでもらったビスケットを噛りながら、大島弓子の「毎日が夏休み」を読む。細かい理屈など笑顔で飛び越えいく彼女の世界は、可愛らしくも強靭だ。陽が和らいだ夕方になってから近所の商店街をぶらつき、渋谷の大型店になかった平野耕太の「大同人物語」第1巻を見つけたので買う。この本自体の絵やノリも同人誌みたいだ。久しぶりに近所を散策したら、知らない間に建物が工事中だったり、神社の横に自転車よけの柵ができていたりした。踏み切りで電車が過ぎるのを待っていると、アジア系の外国語が大声で耳に入ってきて、振り返ると電話ボックスで中年の女が叫んでいる。顔を元の方向に戻すと、周りの人も皆見ていた。他に見るものも無いからだろう。帰宅後2時間ほど寝る。「天然コケッコー」を頭から読み返していたら、8ヶ月分溜まった「アフタヌーン」を読む時間が無くなった。今はマンガが読みたいモードなのに。でも休日を無為に過ごすのって割と好きだ。


 
74日 (sat)

 大学時代のサークルの先輩同志が結婚したので、その結婚披露パーティーへ。暑いのでさすがに上着は着て行かなかった。招待客はやはりサークル中心で、僕は練習が面倒で参加しなかったんだが、有志で合奏も披露していた。昔の僕はさんざんわがまま言う奴だったんで、サークル仲間に会うのはなんか気恥ずかしいのだが、最近は結婚関係のイベントで会うことがすっかり増えてしまった。

 お開きになった後は、新郎新婦に挨拶してから店を出る。僕と数人は、何に使用したのか分からない馬のかぶり物を着用して大はしゃぎ。夜の街にヒヒーンといななく。大人のやることじゃないな。そもそも、ひとつ上の先輩が結婚というのも、おめでたいんだが実感が湧かない。最近はリアルに感じられない出来事ばかりだ。

 3次会は完全に学生ノリで、コップ一杯程度とはいえ、一気飲みまで始まってしまう。先輩がガンガンビールを注ぐので僕も痛飲、人知れずトイレで滝ゲロしてナイアガラ気分に。吐いた後の涙目で洗面台の前に立つのも久しぶりのことだった。

 
73日 (fri)

 くらもちふさこ「天然コケッコー」第5〜8巻、やまだないと「MIOU MIOU」、大島弓子「毎日が夏休み」、望月花梨「裸足めぐり」、そして「ガロ」「コーラス」の8月号を購入。どうも女性作家強化モードに突入してるみたいだ。しかも、「いつ読むのか」「部屋に収納できるのか」なんて問題も頭から排除して、もう後先のことなんて考えちゃいない買い方でGO。

 やまだないとの新刊は、オールカラーで描かれた短編シリーズ。MACを駆使してるんだけど、肌に緑色を塗ったりして、色の使い方がさらに独特になってきてる。各話のストーリの方は、ちょっと小粋で妙にユーモラスな世界。小学校に全裸の転校生が来るとか、お中元でボンテージ女が届くとか、なげやりなまでに奇想天外な話が詰め込まれてる。童心に返ったかのようなエロティシズムが美しい絵で描かれていて、これも彼女の新境地かもしれない。彼女の最近の単行本は全部読んでるけど、1作ごとにコンセプトが違っていて、つくづく停滞しない人だと思わせられる。ひたすら全裸で踊ってる話も絵がめちゃくちゃカッコいいし、ラストのまとめ方も上手い。やまだないと、ハズさない人だ。

 それにつけても「天然コケッコー」だ。単行本を夢中で一気読みなんて、久しぶりの経験。昨夜なんか、明日の仕事も忘れて夜中の2時過ぎまで読んでた。もはや連載誌「コーラス」も買ってくるほどの入れ込みようだ。人間の描き方も、コマ使いも巧み。そしてこの物語の、切なくて優しくて暖かなことといったらない。このままいつまでも描き続けて欲しいぐらいだ。今のオタク生活を全部捨てて、俺もこんな世界に生きたくなったよ。コケッコー。

 
72日 (thu)

 発売の前日に確実に入手できるように、わざわざ予約までしていたエヴァの12枚目のLD「Genesis 0:12」を受け取ってくる。テレビ版の第弐拾参話・第弐拾四話を収録したもので、前の「Genesis 0:11」ほどではないけれど、今回も新作シーンや新作カットがけっこう入っていた。しかも、第弐拾参話では展開の違う場面があって思わず声を上げてしまったし、第弐拾四話には、いまさらながら設定の謎解きに繋がるシーンが追加されていたりで、この期に及んでまだこんなに楽しませてくれるとは、って感じだ。映画の完結編って、こうやってテレビ版の部分に追加が加わることが前提で作ってて、全部出揃った時につじつまが合うように計算されてるんだろうなぁ。

 そんなわけで久々にエヴァを観たんだが、第弐拾参話が始まった時には、なんて陰鬱な雰囲気なんだろうと思ってしまった。エヴァに完全のハマってた頃には感じもしなかったことだけに、その程度にはやっと冷めてきたようだ。と言っても、世間的には充分病んでる部類に入ってるんだろうけど。

 それにしても、カヲルのモデルが、ウテナの監督の幾原邦彦だったとはなぁ(LD解説書より)。

 
71日 (wed)

 くらもちふさこ「天然コケッコー」1〜4巻、望月花梨「チョコレート ダイアリー」、福田和也「この国の仇」購入。

 マンガ読みの人々の間で評価が異様に高い「天然コケッコー」を今頃になって買ってきたんだが、もう1巻を読んだ時点で大失敗だと思い知らされた。といっても作品がつまらなかったんではなくて、今までこんな面白いマンガ読んでなかったことに大後悔。とにかく機敏の描き方がとても鮮やかだ。別に新しい要素なんてないんだけど、ストーリの構成や、エピソードの重ね方も緻密で素晴らしい。もう読みはじめると止まらなくて、この日記書くために読み返しては、日記書く手が止まってる状態だ。

 望月花梨は、可愛い絵柄の一方で、物語には研ぎ澄まされた感性が潜んでて恐いくらい。ストーリの設定にユルいところがある気がして心の底から楽しめなかったりもするけど、鋭く尖った棘が隠れてるのでつい読んでしまう。今度「天然コケッコー」の続巻と一緒に、彼女のほかの単行本も買ってこよう。

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