Vol.5 1998



「COMIC CUE」Volume5 (イーストプレス)
 今号は子供特集。すぎむらしんいちが思いのほか面白かったし、古屋兎丸の生み出す世界は、画力・世界観ともに圧倒的だ。一番インパクトが強かったのは黒田硫黄で、1962年のちょっとねじれた子供の話かと思ったら、いつのまにか暴走してスケールがむやみにUP。こんなラスト、予想しろという方が無理だ。なんかレコードを聴いていたら突然針飛びして、別の曲が流れ出してしまったかのような展開。グレイト。

 そして今回の最大の収穫は、江口寿史の「岡本綾」だった。たった8ページ、されど8ページ。老いて死んでいくのと、若返って無に帰るのと、どちらが幸せだろう? 日常を不意に襲った不条理な現象を、笑いも混ぜながら静かに描いている。江口寿史は今でもギャグマンガを描きたいのかもしれないけど、それで自分を追い込んだりしなくても、非ギャグマンガでこんなに素晴らしい作品を作れるんだからもういいじゃないか。僕の中では、第一線の作家に江口寿史は躍り出た。不条理なのに切なくて、キンモクセイの香りが僕の鼻にも甦ってしまう、そんな作品。

(NOV/09/98)



村上知彦「まんが解体新書」 (青弓社)
 「手塚治虫のいない日々のために」という副題の通り、手塚治虫の没後の日本マンガ界の現状分析が中心の評論集。「週刊少年ジャンプ」の凋落、「ガロ」休刊騒動などの時事的な話題にも言及されているが、思わず唸らされたのは、マンガの差別的表現や有害コミック問題への提言だ。モラルに合わせた耳障りのいい言葉に流されず、マンガの表現としての核を見据えようという意見は、冷静かつ極めて有益だと思う。

 そして本書で繰り返し述べられているのは、マンガの量的な増え方と細分化、そしてアニメやゲーム、ノベライズといった他のメディアとの関連による、マンガという概念の拡大あるいは解体だ。マンガの受け手も既にプロとアマチュアが存在して、作品にのめり込んでいる「プロ」と呼ぶべき読者と、関心はあっても表層的な情報しか知らない「アマチュア」の人々がいると村上は述べる。そう語る彼の評論は、そのアマチュア層へ向けて語ろうとする試みの集大成でもあるのだろう。

 通読すると、残念ながら村上がマンガ読みとして最前線に立ってはいないこともはっきりしてくる。そもそもこの「マンガ読み」って言葉自体、世間一般では通用しない特殊な用語でもあるわけで、村上の「プロ・アマ」理論の正しさを証明しているのかもしれない。

 マンガ自体の隆盛と比べ、評論はその舞台が少ないために、世代交代がなかなか進まないという問題を抱えている。しかしネット上では評論が盛んで、決して良質なものばかりとは限らないが、裾野が広がればその分新しい才能も現われていくだろう。マンガ読みたちが変な選民意識を持つのは困る。けれどマンガ評論が新たな段階に達し、それがマンガ文化に良い影響を与えていくだろうと、僕はけっこう楽観的に考えている。

 手塚治虫の死後も、マンガ文化の発展の中に彼の姿を見るだろうと語る追悼文「君去りしのち」には泣けた。

(SEP/28/98)



ダ・ヴィンチ編集部編「1億人の漫画連鎖」 (リクルート)
 このムックの目玉は「コミック連鎖反応」。テーマや表現などの様々な要素で近接するマンガ作品を紹介する手法で、これはとても新鮮。有名作品からマイナー作品まで視野に入れている点にも好感がもてる。他にも人気投票や作家インタビューなどもあって、マンガを多角的に見られる企画が多いのも特徴。全体としてかなりのデータ量だけど、非常に上手く料理されている。これが1000円足らずって辺りにリクルートの底力を感じてしまった。
(JUN/28/98)



村上知彦監修「みんなのマンガ '98コミックランキング」 (毎日新聞社)
 「村上知彦監修」と銘打ってはいるが、実際の編集は毎日新聞出版局が担当している。構成は、97年マンガランキング・マンガの現状分析記事・各界著名人のお勧めマンガ紹介など。目玉となるのは97年マンガランキングなのだが、これがなかなか信頼できる。視野の狭さを恥ずかしげも無く露呈した「comnavi」のランキングとは比べ物にならないほどマシだ。選考委員には、いしかわじゅん・呉智英 ・ 米沢嘉博らのマンガ評論界の大物をはじめ、鶴見済や桝野浩一なんかも入っていて心憎い。朝日新聞の漫画賞の選考委員と大幅に重なっている気もするが、この人選をした人物はかなりのマンガ通だろう。

 そのベスト5を上げてみると、望月峯太郎「ドラゴンヘッド」、谷川ジロー&関川夏央「不機嫌亭漱石」浦沢直樹「MONSTER」、松本大洋「ピンポン」、萩原望都「残酷な神が支配する」といった具合。渋くてオッケーじゃないですか。僕が「o u t d e x」で紹介したマンガも多く取りあげられてて、見事に趣味があってしまった。もっとも、174位まで挙げられた中に、僕の97年ベスト1作品である落合尚之「黒い羊は迷わない」が入っていないのは納得し難い。いつまでたっても正当な評価を受けられない、つくづく不運な作品だと痛感してしまった。

 マンガ現状分析をする各種記事は、他の雑誌媒体でさんざん見た内容なので新味はなし。マンガ雑誌の編集長10人のインタヴューもあるのだが、対談形式にされているのは不自然。これはいくらなんでも反則だろう。また、名前・顔写真・マンガの表紙が異常な大きさで並べられている著名人のマンガ紹介は、あまりにも露骨なページ稼ぎ。見事なまでにこの本の価値を落としている。

 結論としては、97年マンガランキングに950円を払えるかという問題になってくる。僕は趣味があったので、買い物ガイドとして大いに活用できそうだ。これでページの水増しさえなければ、他人にも勧められる本なのだが。

(MAR/22/98)