Vol.1 1997



「日本一のマンガを探せ!」 (宝島社)
 書名はえらく軽薄そうだが、なかなかどうして骨のある労作なのだ。マンガをジャンル別に分類し、その中で代表的なマンガ家を紹介するという構成。それ自体は珍しくないが、何がいいって、とり・みき、高野文子、谷口ジロー、よしもとよしとも、やまだないと…といったマンガ家たちの扱いが結構大きいのだ。商業的に大成功をおさめた作家ではない彼らを、これだけしっかりと取り上げているのは立派。しかも、扱いは小さくとも、松本充代まで紹介されているのには感心した。選出された代表作には「?」なところもあるが、このデータ量で、しかもインデックスも充実していて850円(税抜き)は「買い」でしょう。心ある「マンガ読み」の方は、お手元に是非。



とり・みき「マンガ家のひみつ」 (徳間書店)
 とり・みきによるマンガ家インタビュー集。相手のメンツは、ゆうきまさみ・しりあがり寿・永野のりこ・青木光恵・唐沢なをき・吉田戦車・江口寿史・永井豪・吾妻ひでおという、その筋の人にはたまらない人選。このツワモノたちのマンガへの姿勢を浮き彫りにし、同時に、純粋に1人の作家として、マンガ界全体を見渡す視点を持って自分自身をも分析しているとり・みきの姿勢が印象的だ。

 また、この本には登場したマンガ家全員(とり・みき含む)の詳細な著作リストが掲載されている。それがまたとり・みきのデータおたく的側面を見せ付けていて、単行本各巻の初版発売日、新装版・文庫版の区別など、本当にマニアの所業といった感じのものなのだ。主観的な考えだけでなく、客観的なデータもしっかり提示する彼の姿勢は素晴らしい。



いしかわじゅん「漫画の時間」 (晶文社)
 「ガイドブック」と「評論集」という2種類の本は、一般にはその性質が混同されがちだ。しかし、前者は、読者に未知のものを客観的に分かりやすく紹介し、後者は、客観性を保ちつつも筆者の主観に重点を置くという点で根本的に異なる。つまり、評論集の方がより評論対象を通しての自己表現としての性格が強い。あるいは、そうあるべきなのだと思う。

 いしかわじゅんの「漫画の時間」は、そうした必要条件を見事に満たしている。自身もマンガ家として活躍するいしかわの漫画論及び漫画評を収録したものだ。初版が1995年なので、紹介されるマンガは当然それ以前のものとなり、97年の現在では少なからぬタイムラグがあるのは否めない。また、この本で紹介されているマンガのうち僕が読んだのは半数ぐらいにすぎないのだが、そうした点を踏まえても、本書は充分に楽しめたのだ。

 紹介される作品は実に100作。これだけでもいしかわのマンガ好きぶりが窺われるが、彼の本領はそうした点にとどまらない。冒頭のマンガ論で、1冊のマンガ誌を1日かけて楽しみながら読めると彼は述べている。ずいぶん大袈裟な言い回しだと思ったが、ところが本書を読み進めていけば、それが決して誇張ではないことが分かってくる。彼がマンガから読み取る情報は並みではないのだ。構成・描線・造形などから描き文字にいたるまで、マンガに含まれるすべての情報を読み取っているのでは、と思わせるほどである。そうした膨大な知識を持つ彼の書くマンガ評が面白くないわけはない。平易でありながら的確な表現で、各マンガの魅力を引き出してくれるのだ。

 読み終えた後に満足感とともに印象深く残るのは、いしかわのマンガ文化に対する愛情の深さだ。ここで紹介されたマンガよりも、まず彼の作品「憂国」を探さなければ。実を言うと僕は、彼のマンガを本腰で読んだことがなかったのだ。いけない、僕のマンガへの愛情は足りないようだ。