Vol.5 1997



唐沢商会「ガラダマ天国」 (ぴあ)
 唐沢商会の「ガラダマ天国」は、読み通すのに本当に時間がかかる1冊だ。ファンにはおなじみの唐沢俊一・唐沢なをき兄弟によるウンチクもので、ノリは「能天気教養図鑑」や「原子水母」は近い。違うのは基本的に1ページ完結という点だが、92〜97年の6年間に及んだ連載だけあって、その分量はかなりのもの。しかも例によって、時事ネタ・季節ネタ・おたくネタ総動員の、濃密なネタの数々が繰り出されるのだから、単行本でまとめて読む読者には精神力が求められようというものだ。

 そして見所は、口上から始まって一気にディープなネタへと1ページの間で展開させるその力技。後半に行くほどその技に磨きがかかってくるのだが、それがここ数年の唐沢兄弟のメジャー化と流れを同じくする辺り、なかなか感慨深かったりもする。後半で俊一のキャラが表情豊かになっている点にも、読者への芸の見せ方が一層こなれてきたことを感じてしまった。

(JAN/14/98)



星野之宣「宗像教授伝奇考」 (潮出版社)
 まさか自分と同じ名字(読み方が違うけど)の主人公がマンガに登場する日が来るとは想像したことも無かったが、それはさておき星野之宣の新刊だ。

 日本各地に存在する超古代文明の遺跡を巡る宗像教授が、欲深い人々によって引き起こされる事件を解決すべく大活躍…というのがストーリーの基本形。ツボを押さえた展開で、ともすればマニアックになりがちな遺跡ネタを見事に料理する職人芸が見物だ。

 ただし、予定調和の連続であることは否めないし、善悪の単純な対立項に物足りなさを感じてしまうことも事実。これと同じことは「ヤマタイカ」「ブルーワールド」といった旧作にも言える。

 しかし、超古代文明に関する知識を駆使して、荒唐無稽さを確信犯的に利用するエンターテイナーぶりには、やはりさすがだと感じてしまう。

 ところで連載誌だった「コミックトム」は97年に休刊。この「宗像教授伝奇考」も、断筆の憂き目に遭うこととなったらしい。商業的な問題に道を塞がれては、数々の事件を解決してきた宗像教授も黄泉の国へ旅立つしかなかったようだ。残念。

(JAN/28/98)



やまだないと「恋に似ている」 (祥伝社)
 「ero*mala」「しましまのぷちぷち」「ラマン」「ボクと王様」そしてこの本と、97年はやまだないとの単行本を5冊も買ってしまった。旧作の単行本化などもあるので少しレベルに波があるけれど、こうして改めて見ると、彼女の作品世界の多彩さには驚かされる。

 この本は、タイトル通り恋愛マンガを収めたもの。オープニングを飾る短編「恋に似ている」は、最後のモノローグが同時に単行本のタイトルとなっていて、さらに後半の「いとこ同志」以降の連作へと繋がっているという心憎い構成だ。

 フランス映画を思わせるMACを駆使した最近の作画とは違った路線で、絵柄には余白が多い。登場人物それぞれが抱える痛みを淡く描いており、多弁すぎず、かといって寡黙すぎないその描き方は、彼女の恋愛ものの持つ大きな魅力だ。

(FEB/12/98)



とり・みき「石神伝説」 (文芸春秋)
 「遠くに行きたい」「SF大将」「石神伝説」といった最近作を比較してみると、その方向性はそれぞれ大きく異なっている。「遠くに行きたい」がとり・みき独自の「間」の感覚を突き詰めた実験作とするなら、「SF大将」は「てりぶる少年団」でかつて頂点を極めた(しかも今も維持している)ギャグ路線。そしてこの「石神伝説」は、「山の音」と同系列の民俗学的な要素の強い作品と位置づけられるだろう。ベテランの域に達しても表現を追求するこの姿勢には、お世辞抜きで感服する。

 全国で起こる古代文明と関わる事件を追う新聞記者とライター、そして行く先に現われる自衛隊員と美少年。かつて日本古来の民族と渡来人系の民族とが繰り広げた戦いが、長い時を経て現代に再び起きようとしていた…というのがストーリーの基本軸。

 発生する事件はどれもかなり荒唐無稽だが、展開のダイナミックさという点では他のとり作品に類を見ないものとなっている。民俗学的な知識を上手く演出している効果も大きい。

 「石神伝説」はストーリーマンガであり、表現形式的にも古典的な手法が取り入れられている。そうした中で、要所要所にMAC処理が用いられている点でも注目される。この作品もひとつの実験作なのだ。

 とは言うものの、この作品はまだ第一巻が出たばかり。完結を迎えるまでつぶれないでくれよ、「コミックビンゴ」。

(FEB/12/98)



とり・みき「SF大将」 (早川書房)
 まず目を引くのは、祖父江慎による幾何学的にしてポップな装丁だ。手にとってしばらく見ほれてしまった。カバーにとどまらず、丸ごと1冊が目が眩むほどカラフル。さらに横組みと縦組みのマンガの2種類がある上、パロディーの原点となったSF作品の解説もあるという、マンガの単行本としては凝りに凝った構成だ。

 内容もそれには負けていない。相変わらずの奇想の嵐ともいうべき内容で、SFに関しては完全な門外漢なの僕も充分に楽しむことが出来た。とり・みきテイストとでも呼ぶべき独特の間も健在なので、非SF者でも安心。江戸っ子が落語のようなドタバタを長屋でやっているものの、実はスペース・コロニーの中だったという「リングワールド」の激しい飛躍ぶりはその典型だ。

 SF概念の拡大を描いた「SF小僧」(なんとエヴァのネタもあり)を読んだ後では、とり・みきの感覚自体がSFそのものなんじゃないのかという気さえしてくる。この本には確かに「センス・オブ・ワンダー」に満ちている気がするのだ。門外漢が偉そうなこと言って恐縮ですが。

(FEB/12/98)