Vol.13 1998



庵野秀明×岩井俊二「マジック・ランチャー」 (デジタルハリウッド出版局)
 この2人を担ぎ出すとは、ずいぶんあざとい企画だなぁと思いもしたが、読み始めたらかなり面白い。版元がマルチメディア系の会社であるせいだろうが、彼らのクリエーター的資質に焦点を定めた構成だ。庵野と岩井は、作り手の視点から、アイデア・予算・分業体制・監督の役割など、それぞれの映画論を述べている。

 両者の学生時代からの映画遍歴も浮き彫りになるし、高度成長も学生運動も終わった後のイベントの何もない世代的から現われたのが彼らだというのも興味深い。岩井作品の詰めの甘い点について、庵野がいろいろ指摘しているのは、やはり性格だろうか。特に、クサさを逆手にとって感動を生みだそうとする岩井の映画理論や、インタラクティヴではなく、映像が一方的に押し付けるメディアであるゆえに生まれる快楽を認識して作品を生み出そうとする庵野の発言は面白かった。

 両者に共通するのは、作品をめぐる状況に対する非常に冷めた視点でもある。評論家へはかなり手厳しいく、おまけに最後の読者に対してのコメントも冷めている。そんな偏屈な発言が詰まってはいるが、それは同時に、技術と自信に裏付けされた非常に心地よいエゴでもある。

 各種映画データや用語についての解説はかなり細かく、そうした編集にも好感を持った。

 ところでこの本の途中には、今年1月にエヴァがWOWOWで放送された際、本編の前に流された短いフィルム「『エヴァンゲリオン』そして『ラブ&ポップ』」のシナリオが収録されている。読み返してみるとかなり強引な展開なのだが、放送時には不思議と違和感を感じなかった。これも映像のマジックなのだろう。

(JUN/30/98)



鈴木清剛「ロックンロールミシン」 (河出書房新社)
 「ラジオ デイズ」に続く2冊目の単行本は、インディーズブランドを舞台にした物語だった。友人の凌一が仲間たちと始めたインディーズブランドを最初は冷めた目で見ていた賢司は、仕事が無意味に思えて会社を辞めた後、次第に彼らのインディーズブランドへ深く関わっていくことになる。

 自分にまとわりついて引き剥がすことのできない虚無感、どこにいても居場所の無い気分。あるいは空回りする情熱といったものが登場人物たちを動かす。恋人のユミコを含め、最終的には登場人物たちがそれぞれの道を求めていくことになるのだが、ひとつの失敗やつまずきが決して全ての終わりではないという描き方が爽やかだ。

 読んでいる途中では、決して修羅場になだれ込むことのないような淡さが漂っている点に、ある種の物足りなさを感じもした。しかし、「ラジオ デイズ」に比べてテーマの提示の仕方がより具体的になり、説得力も増している。そしてラストの鮮やかな幕引きに代表されるように、一気に構成が巧みになった。作品の内容はもちろん、作者のそんな進歩が、同世代の僕には嬉しかった。

(JUN/30/98)



高橋春男「絶対安全Dランキング」 (Japan Mix)
 DとはDRUNKERのD、高橋春男が酔っ払いながらバカを並べるという、画期的にいい加減なランキングだ。この単行本には、「噂の真相」に連載された95年から97年までのランキングが収録されていて、僕はけっこう初期から読んでいる。ところがまとめて読み返すと、初期は事実と妄想がかろうじて区別できたのに、現在ではほとんど判別できなくなっいていることに気付く。今でも明らかなデタラメはあるんだけど。テレビとか雑誌で目にしたネタを好き勝手に料理しているらしいんだが、この妄想の膨らませ方の芸達者ぶりとか、後先のことは考えていないようなおちょくり方はやっぱ面白い。本当は大真面目にウンウンうなりながら考えてるんじゃないかって勘ぐりたくなるほどだ。なにより、この人の本業はマンガ家のはずなんだけど、文章へのユーモアの含ませ方がかなり上手くて勉強になる。この人から勉強すると自分も酔っ払いになりそうだという不安もするけど。
(JUN/30/98)