Vol.12 1998



東琢磨編「国境を動揺させるロックン・ロール ソウル・フラワー・ユニオン」 (ブルース・インター・アクションズ)
 日本人としてのルーツの探求を音楽的な貪欲さをもって進める一方、チンドン編成のソウル・フラワー・モノノケ・サミットで阪神大震災の被災者の慰安活動をするなど、強い意思を持って一貫した活動を続けるソウル・フラワー・ユニオンの活動をまとめた本。メンバーのインタビューと座談会、ソウルフラワーにほれこんだ人々からの寄稿によって構成されている。

 特にメンバーのインタビューは、彼らが独自の活動を行うに至る過程を理解するうえで貴重な資料だ。優秀な音楽家にして詩人・思想家である中川敬は、幼い頃から転校続きだったためいつも漂白している気分で、居場所がない気持ちは今も変わらないという。これは、彼の音楽的・思想的な胃袋が大きい理由を物語っている気がした。また、ソウルフラワーのもうひとりの核である伊丹英子は、意志の強さや押しという面では、その中川以上ではないかと思わせられる。モノノケ・サミットとしての活動を最初に提案したのも彼女だ。その一方で、「今の男は成功願望に囚われてる、ダメな男をいっぱい製造したい」という内容の発言もしていて、僕みたいな男は妙に安心したりもする。他のメンバーはこの2人に引っ張られているだけではないだろうか、今の方向性に本当に納得しているのだろうか?という疑問も今まであったのだが、メンバーそれぞれの視点から活動していることが分かる。高木太郎が脱退した事実も含め、ソウルフラワーが「個」の力学で支えられているバンドであると感じさせられた。

 対談は震災後の活動の話題が中心。震災の仮設住宅であろうと、北朝鮮・ヴェトナム・フィリピンであろうと、彼らが常にそれぞれの場においてエネルギーの交歓をしてきたことを感じさせる。それはイデオロギーに縛られた「運動」の呪縛から解放されたものであり、民衆の立場に立った巷的な視点から活動しているとういうことだ。彼らが単純な左翼的言動に陥らないのも、抵抗史観によっているためだと分かるし、だからこそ自由主義史観批判にも説得力を感じさせる。

 様々な境界線を打破するソウルフラワーの活動を一本の線で結んだ労作だと思う。さまざまなミュージシャンとの共演を収めた写真も多数収められている。

(JUN/30/98)



島田雅彦「君が壊れてしまう前に」 (角川書店)
 「かつて14歳だったあなたへ。いま14歳の君に。」なんて帯の文句とこのタイトルに、つい「あの少年」を連想してしまうけれど、実際は彼が逮捕される前に書かれた小説だった。タイトルも連載時とは変更されていて、オリジナルの題名は「甦る青二才」。

 現在は大人である主人公の回想をはさみながら、彼が少年だった1975年の1年間の日記がそのまま並べられている。つまり、元旦に始まり大晦日に終わるまで、365日分の日記が書かれているわけだ。これだけ小さな要素を集めながらひとつのグルーヴを生み出すのは、なかなか力量が必要だろう。書くのも面倒そうだし。

 主人公は恋をして、オナニーをして、喧嘩をして、映画だバンドだと動き回り、時には自殺を考えたりもする。父親は女を作って家出、母はそのショックで買い物魔。他にも魅力的な女性の家庭教師や、正体のよくわからない元革命家などの大人たちと知り合ってはやがて別れてゆく。子供同志の過剰な自意識が激突する、進化の途中の狂った動物のような時代の中で、主人公は無力さと絶望を知ることになるが、そこそこ怠惰に生きる術を学びながら、世界との折り合いをつけていく。その過程を1年分の日記の中で描いているのがこの作品だ。

 日記の最後を飾る12月31日のエピソードと、かつては世界と戦っていた主人公も、やがては上手い生き方を身につけたことを印象付けるラストはけっこう好きだ。戦後に育ち、人間として成熟することが意外と難しい世代の仲間へ宛てた手紙のような、爽やかな読後感が残る作品だった。島田雅彦と誕生年が同じである主人公は、たぶん昔の島田自身なのだろう。

(JUN/06/98)



近田春夫「考えるヒット」 (文藝春秋)
 「週刊文春」に連載されている歌謡曲評をまとめたもので、この単行本で取り上げられているのは実に97曲。本の3分の1弱は、島森路子やナンシー関との対談にあてられている。

 音楽的完成度に今一つ満足してなくても、歌謡曲の不完全さを逆に楽しむという斜に構えた聴き方は僕も少なからずしている。ところが近田春夫の聴き方はそうではなくて、驚くほど真摯な聴き方だ。巻末の登場アーティストの索引を見ると、安室奈美恵・小沢健二・奥田民夫・SMAP・B'zあたりが多く取り上げられている。小沢健二の歌は下手ではないという意見はまだいいにしても、B'zを正面きって評価するというのはかなり勇気が要りそうだが、近田は本気で誉める。歌詞は読むものではないから一見稚拙なものでもいいと述べ、パクリも方法論の一つとして認め、楽曲が歌い手の存在をどれだけ表現できているかで評価しているようだ。

 中でもずば抜けて多く取り上げられているのが小室哲哉。彼に関しては、近田はもう絶賛と言ってもいい扱いだ。絶え間なく生み出される小室楽曲は連載マンガのようなものだ、彼の感覚はヤンキーそのものだ…などなどの分析を加え、幸福感が希薄な歌詞に若者が抱える不安を読み取る。漠然とした不安なんてものは言い古された感もあるが、大量に消費されるヒット曲を元にした分析だと妙に説得力があるのも事実。とにかく近田春夫の本気度が高い1冊だ。

 余談だが、TWO-MIXの曲は高山みなみが書いてるとか、The虎舞竜の「ロード〜第5章」はオリコン100以内にランキングしていないとかの事実もこの本で知ることが出来た。だからどうだというわけではないんだけど。

(JUN/06/98)